まだそんなものにすがっているのか☆
「まだそんなものにすがっているのか」
手には、社長にもらったビニール傘。
この傘で外へ出て、悪いことをした。もうあんなこと、してはいけない。
これも、手放すと決めた。
でも、手が動かない。
そんな夢を、何度も見る。
外は雨。
一度はつかんだ傘の柄を、震えながら手放した。
☆☆
「すいませんすいませんすいません!」
「あーうん、まず上着脱いで濡れたところを拭けよ、風邪ひくだろ。
一応ウチは接客業だから、次は濡れないように出社しろよ?」
「すいませんすいませんすいません!」
雨の中、傘も差さずに全身ずぶ濡れでやってきて、今は高速でぺこぺこ詫びる芹沢に、霊幻所長はバスタオルを被せて言った。引きこもりだったことは聞いているが、まさか「雨が降る日は濡れないように出社しよう」なんてところから教える必要があるとは思わなかった。
4111