お🦊コイト様 天高く生い茂った枝葉の隙間から照りつける太陽が、肌を痛いほどに劈く。
今朝、出掛けにチラリと見えたテレビの天気予報では、最高気温は三十五度を越えると言っていた。もはや人間の平熱。馬鹿馬鹿しいほどの猛暑だ。額にじわりと滲んだ汗が、頬を伝って顎からポタリと地面に落ちた。
陽光を反射して輝く川の水面も、緑いっぱいの大自然ののどかな風景も、月島の目には憂鬱に映った。ジワジワとうるさく喚く蝉の音が鬱陶しくてたまらない。
何が豊かな自然だ、何が癒しを与えるだ。一人になりたくて獣道を越えてまで山奥に来たのに、これではあの家の喧騒と変わらないじゃないか。
月島基、十歳。夏。
一学期の終業式を終えてすぐ、彼は生まれ故郷の離島をはなれて本州のとある田舎へ越してきていた。
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