思いつきで書きたいとこだけ書いた従兄妹同士の話「もうダンスはお終いですの?」
歓談の合間に果実水で喉を潤していたら、同じくグラスを取りに来たらしい従妹が声をかけてきた。
「ああ……うん。どうしても、ダンスは苦手でさ」
「ええ、そのようで」
つれない返事を苦笑で誤魔化し、手元の水を呷った。夜会の雰囲気には幾分慣れてきたが、居心地の悪いことは変わらない。値踏みする視線を感じるたび、まだまだ信用されていないなと苦く思う。
忠臣達の配慮のお陰で、娘を妃にと迫られる頻度が減ったことだけがせめてもの救いだ。それはそれで、今度は次代である子供達に白羽の矢が立ちつつあるわけだが。
「まるで妖精か、女神様のようだわ」
僕の溜め息を打ち消すように、ドリスがうっとりと広間の中央を見つめて呟いた。
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