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    サクライロ

    【2023.10.4】
    諸々検討の結果、ポイピクの投稿を停止することに致しました。後日アカウントを削除します。
    ご覧くださった方、リアクションをくださった皆様。本当にありがとうございました!
    今後はくるっぷ+pixivにて細々活動していきます。
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    サクライロ

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    しつこくも宵闇奈落番外です。以前ちらっとあげた漫画ラフから続く場面です。夜会前に手篭めにした、その夜会での一幕。唐突にテュールとドリスの会話を読みたくなって書き殴りました。オチはない。
    他進捗ですが、死ぬ病メリバのゴールがようやく見えてきました!本編続きものろのろ書いてます、イヤー故郷に着いてしまう嫁が離脱してしまう…!あと姫始めももう少し。二大鬱話を並行して書いてるお陰で箸休めばかり進みます。

    ##小説
    ##宵闇奈落

    思いつきで書きたいとこだけ書いた従兄妹同士の話「もうダンスはお終いですの?」
     歓談の合間に果実水で喉を潤していたら、同じくグラスを取りに来たらしい従妹が声をかけてきた。
    「ああ……うん。どうしても、ダンスは苦手でさ」
    「ええ、そのようで」
     つれない返事を苦笑で誤魔化し、手元の水を呷った。夜会の雰囲気には幾分慣れてきたが、居心地の悪いことは変わらない。値踏みする視線を感じるたび、まだまだ信用されていないなと苦く思う。
     忠臣達の配慮のお陰で、娘を妃にと迫られる頻度が減ったことだけがせめてもの救いだ。それはそれで、今度は次代である子供達に白羽の矢が立ちつつあるわけだが。
    「まるで妖精か、女神様のようだわ」
     僕の溜め息を打ち消すように、ドリスがうっとりと広間の中央を見つめて呟いた。
     つられて顔を上げれば、視線の先には今宵三人目の誘いに応じたフローラが、疲れも見せず優雅な舞を披露している。
     今夜のフローラは、純白を基調に髪と同じ空色をあしらったドレスを身にまとっている。薄い生地で腕とデコルテを覆い隠し、露出は極力控えたデザインだが、それ故に、ちらりと覗く足首の艶かしさがたまらない。
     ドリスの言う通り、まるで水辺の妖精だ。碧い後れ毛が真っ白な胸もとに躍るたび、歓談中の人々が絶えず感嘆の息を漏らす。
     じっと見つめていたら不意に目が合った。途端に鮮やかな薄紅で首筋を染めたフローラが、ぱっと勢いよく顔を背ける。
     三人か。あちらにも誘いたそうにしている御仁がいるし、今夜も寝かせてあげられないかもね……
     先日強引に交わした淫らな約束を思い出し、つい仄暗い笑みをこぼしてしまった。目聡い従妹に怪訝な眼を向けられたが、首を振って誤魔化す。継ぎ足された水を揺らしながら、当たり障りのない問いを振った。
    「ドリスは、踊らないの? 残念ながら僕は誘ってあげられないけど」
    「期待してません。パンクラーツの血族は基本的に、舞踊のセンスが皆無なんですの」
     しれっと放たれた台詞に、危うく果実水を噴き出しかける。
     狼狽えたサンチョが大慌てでハンカチを差し出してくれた。従兄の醜態にも彼女は涼しい顔で、「陛下が気に病まれることはございません。父も私も、踊らずの王族と呼ばれております」などと言い添えた。
     そこはニュアンス的に、踊れぬ王族と言うべきでは。
     さも聞こえませんと言いたげに視線を泳がすサンチョをじとりと見遣り、次いで扇に隠れて笑う従妹を軽く睨めつけた。
    「全然知らなかった……なんでもっと早く教えてくれないのさ」
    「身内の恥を晒すのは忍びなく。城の皆々も私達を憐れんで進言しなかったのでございましょう。まったく、つくづく呪われた一族でございますわね」
     ねぇ? と笑顔で圧をかけるドリスに、サンチョがぎごちなく愛想笑いを返した。思わず苦笑した僕を見たドリスが、心底うんざりという顔で扇を翻す。
    「だから言ったでしょう。女王も王妃も真っ平御免ですって」
    「気持ちはすっごく、よくわかる」
     なるほど、彼女からしてみれば体よく僕に押しつけられて上々といったところか。早く私も理解ある夫を得たいですわ、などと心にもないことを嘯くドリスが妙にツボに嵌まった。くつくつ肩を震わせると、彼女は立腹する様子もなく、深緑の瞳に悪戯っぽい色をまとわせ笑う。
     血縁だからというのもあるだろうが、慣れた今では話しやすい相手だと思う。
    「僕も例に漏れず下手くそだからな。フローラはさぞ踊りにくいだろうね」
    「妃殿下が?」
     不思議そうに僕を仰ぎ見たドリスに、うん、と頷く。
    「あんなに綺麗に踊れるひとだから、毎回僕の相手をさせるのが申し訳なくて」
     腐っても国王だから、その伴侶だから。
     舞踏会で、王妃が初めに踊るのは王と決まっている。フローラが毎回必ず踊る相手は僕だけ。それは正直、誇らしい。
     本当は、ずっと僕だけがいい。ずっと彼女を独り占めしていたい。他の誰とも踊らせたくなんかない。
     そもそも主賓ならいざ知らず、最上位である王と王妃が臣民と踊る理由はない。フローラがああして諸侯の相手をしてくれるのは、わかりやすい接待だ。
     例えば、力を削がれた元聖職者。僕に娘を娶らせたかった有力者。王を傀儡とすることに慣れきった奸臣達。貴き身である王妃が直々に誘いに応じ、時に彼らの陳情を直接聞き届けてくれる。この国に出自がない彼女を内心見下している輩はごまんと居るが、竜帝の加護を目の当たりにしてからは、表立って彼女を蔑む者はいなくなった。そんな潮流もあり、夜会で王妃を一曲独占することは今や、社交界においてこの上ないステータスとなっている。彼女のお陰で、未熟な王政への不満も多少は紛れる算段だ。
     無論、このやり方が通用するのは今だけのこと。そろそろ対象を絞りましょうと宰相も言っている。逆に言えば、彼女が数多の男達と踊る姿を見せられるのも、もう少しの辛抱ということで。
     平気なわけじゃない。ただ、自分が不甲斐ない所為だってわかるから。
     僕のダンスはさぞ物笑いの種だろう。今宵王妃にご満足いただけるのは誰か、誰が最も注目を集めるのか、紳士達が毎回競りあっていることも知っている。その顔触れに、僕は端からお呼びでない。
    「……でも、あの方があんな顔して踊られるの、兄さんだけだと思いますけれど」
     もやもやした気持ちを飲み下そうとしていたから、ドリスがぼそりと落とした呟きへの反応が一拍遅れた。
    「え、どんな?」
    「やだ、まさか気づいてらっしゃらないの⁉︎」
     間抜けな声を発した僕を、信じ難いとばかりに凝視して。
     夜会の喧騒にも構わず、ドリスが素っ頓狂な声を上げた。

    「フローラ様があんなにも嬉しそうなお顔で踊られるのは、兄さん……陛下のお相手をなさっている時だけではありませんか」

     ……いつも、失敗して恥をかかせないようにって、いっぱいいっぱいに気を張ってて。
     彼女の顔を、ちゃんと見る余裕もなかったかもしれない。
     たった今踊っているフローラは落ち着き払っていて、聖母のような笑みをたたえながら、相手の男性と時折言葉を交わしている。
     今更ながら、それがいつものあどけない微笑みではなく、よそゆきの笑顔であることに気がついた。
     思えば、二人で練習する時。僕がよろけて足を踏みそうになっても、フローラは怯えることなく寄り添って、根気よくリードしてくれた。
     申し訳なくて表情を窺うと、花が咲くような、今とはまったく違う笑みを惜しみなく向けてくれた。
     ずっとこうしていたい、あなたと練習している時が一番楽しいですって。あれは彼女の優しさからくる言葉なんだって、勝手に思い込んでいた。
     言葉を失った僕をドリスは呆れた眼で見遣り、さも不服そうに唇を尖らせる。
    「外野の雑音など気にされることはございません。妃殿下を誰より悦ばせていらっしゃるのは、紛れもなく陛下です。巧拙も技量も関係なく」
     言われている内容はすごく嬉しいことなのに、ドリスはどうしてこんなに面白くなさそうな顔をしているんだろう。
     羨むみたいに、悋気に満ちた眼差しで睨めつけて。
    「ですから、あんな刺激の強いお顔をみだりにさせないでくださいませ。臣民が目のやり場に困ります」
    「刺激って……」
    「以前の夜会の後には、随分励まれたとお聞きしましたけど。まさか、今日のご入場前にも何かなさってませんでしょうね?」
     だからさ、王族にプライバシーはないわけ? 仮にも未婚の若き姫君が、なんで従兄夫婦の褥事情を把握してるんだ。ていうかこんなところでそんなこと、誰が聞いているとも限らないのに。
     憤慨したいのは山々だが、ついさっきの『やらかし』を見事看破された僕は正直、それどころではない。
    「先ほど広間に入られた折、妃殿下のお顔が竜の舌より真っ赤でしたけれど」
    「……えーと……うん」
     どうしよう、言えるわけない。夜会直前、王妃を手篭めにしてましただなんて。あの華奢な身体に思いっきり僕の印を刻みつけただなんて、絶対に知られてたまるもんか。ていうか何だその喩え、さすが僕の従妹だな、などと目まぐるしく思考していたら、隣でのほほんと聞いていたサンチョが助け舟を出してくれた。
    「陛下はフローラ妃殿下を、それはもういたくご寵愛なさっておいでですからね。本日の装いも大変お美しゅうございますから、お手をとられた際につい、愛であげてしまわれたのでしょうな」
     にこやかに見上げてくる忠臣にこくこく頷き、内心ほっと胸を撫で下ろしていると、傍らからぼそりと怨嗟の如く呟く声がした。
    「このバカップル夫婦め」
    「なんか言った?」
    「いえいえおほほ。さ、そろそろお疲れでしょうから、妃殿下をお迎えに参りませんと」
     何それ? と首を傾げる僕を置いて、そそくさとドリスが去っていった。後で聞いたら、フローラが事前に頼んでいたらしい。あまりに誘いが続くようなら一声かけてほしいって。後ろ盾がなく立場が弱いフローラは、どうしたって誘われれば断りづらいから。
     それくらい、僕を頼ってくれればいいと思ったけど、王妃とはいえ陛下直々にお出ましいただくわけには参りませんと突っぱねられてしまった。見事フローラを救出したドリスは、これ見よがしにフローラと腕組みしつつ「王族の女で良かったと、今日ほど思ったことはありませんわ」とにやにや笑って言ってのけた。宣戦布告か。
     ただでさえ物知らずで、舐められっぱなしの若造である僕を、フローラは、そして臣下であるみんなも、いつだって精一杯守ってくれている。
     ──……それに、って。
     夜会の後、二人きりになってから。フローラが囁いた殺し文句は、臍奥に燻る情欲にひときわ効いた。
     ────踊りすぎて疲れてしまったら、あなたをまた、満足させて差し上げられなくなってしまうでしょう?
     首まで真っ赤にしてそんなことを言われては、夜会の間、密かに昂らせた感情が滾るままに抑えを失う。
     ああ、可愛い。どうにかなりそう。僕のことだけ考えてと願いはしたけど、まさかそんな淫らなことを、踊りながら考えてくれていたなんて。
     もちろんその後は、たくさん踊って汗ばんだフローラをそのまま美味しく頂いたわけだけど、それは今から数刻後、この夜会が終わってからの話。
    「ドリスもさ、何だかんだでフローラのこと好きだよねぇ……」
     足取りも軽やかに、広間の中央へ向かう従妹を見送った。すぐに気づいたフローラが頬を綻ばせる。仲の良い姉妹のように、手を取り合った二人はたった今妻と踊っていた相手に美しく礼をとり、談笑しながら人々の輪を離れていった。
     十数年前、まだ十代前半だった彼女は、周りに何を吹き込まれたのか、こちらを警戒した様子であまり積極的に接することがなかった。フローラも絶対安静中だったから、あんなふうに親しくできなかった。
     今でこそ僕を気安く「兄さん」と呼んでくれる彼女だけれど、もしかしたら一人っ子だったドリスは、接点を持てなかった当時から、フローラを姉のように感じていたのかもしれない。
     だからなのか、僕らが不在の間には、残された子供達に対して本当の弟妹の如く接してくれた。あの子達もドリスを「お姉ちゃん」と呼んで慕っている。本当に、感謝してもしきれない。
    「どなたがお相手でも、陛下のご寵愛には敵いませんよ」
    「いや、えっと……あー。そうだね」
     何を心配してくれたやら、慰め混じりにサンチョがしみじみ呟いた。僕の妻への溺愛ぶりは今や、命惜しくば一瞬たりとも碧の王妃に下心を抱く勿れ、などと囁かれるほど有名らしい。
     だからこそ皆、堂々彼女に近づけるダンスの機会を得ようとして群がってるんだけどね。つまり噂の出所はともかく、煽っているのは切れ者の宰相である。ほんと、僕らは彼にいいように使われてると思う。
    「陛下。ランデル家の当主が、ご嫡男にお目通りをと」
     ちょうど彼の顔を思い浮かべたところで、宰相が僕を呼びに来た。頷いて、僕も為政者の仮面を貼りつける。
     それが僕の役割ならば、期待通り、踊ってやろうじゃないか。
     フローラがああして戦ってくれているように、僕もまた、この新たな戦場を戦い抜くのだ。僕らを支え、共に生きてくれる人を一人でも多く見定める為。未来を受け取る子ども達に恥じない国を作る為。動乱続きだったこの国を、今度こそ、真の安寧へと導いてゆく為に。
     


     ────もし、ドリスが男だったら。
     ふと、そんな想像が思考の片隅に湧いた。もしドリスが王子だったなら、国民はそこまで悲観しなかったかもしれない。本人もあそこまで王位に反発しなかったかもしれない。証は、彼女……彼を選んだかもしれない。オジロン様よりパパス王に似たドリスだから、母親似の僕よりずっと、民に慕われる王になったかもしれない。今も従兄嫁にひどく懐いている様子のドリスだから、もしかしたら『彼』もまた、フローラに、恋を、したかもしれない。

     すべては仮定の、あり得なかった世界の話だ。
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