キスの約束 穴が開きそうな熱視線を向けられたかと思ったら、目元にふっくらした感触が押し付けられる。今夜だけで既に三十二回目の口付けに、千はとうとう耐え切れなくなって吹きだしてしまった。
「くすぐったかった? ごめんね」
突然笑い出した千に百が的外れな謝罪で返す。普段は舌を巻くほど察しが良いのに、時折、主に千に対しては呆れるほど鈍感になるのが百だ。鈍感というよりは、意図的に見ないようにするという方が正しいだろうか。
「違うよ。ただ、モモって本当にかわいいなと思って」
このかわいいは口説くかわいいではない。もしそうなら、千は口にするのにもう少し意気地が要る。
ただ、わざわざ注釈を入れなくとも、付き合いの長い相方兼恋人には、小動物を愛でる意味でのかわいいだと正しく伝わっているらしく、頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
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