【知る者はひとり】ティーンリンゼル
《アレキサンドライトの夜・if物語》
「友人の娘だ。わずかな間だがこの辺りを案内してくれるか」
父はそう言ってまた遠い城へと勤めに出て行った。
少年リンクの家に父が連れてきた少女はお日様色の髪と森の瞳を持っていた。十二歳のリンクと同じ年頃の少女はルデアと名乗った。ふたりきりの家、リンクは少女のためにご飯を作った。
びっくりするほど、ルデアは家事について知らなかった。自然現象についてのたくさんの知識を持っていたけれど、実際に触れるのは初めてのことばかり。シャボン玉を飛ばしては驚き、跳ねるカエルを目を輝かせた。
短い夏の間の邂逅。
ふたりは自然に仲良くなり、一緒に虫を捕り、川で遊び、草原に寝転んだ。いつまでも一緒にいたい。ひとりで過ごすことの多い少年にとって、少女と過ごす時間がかけがえのないものになるのに時間は掛からなかった。
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