アレキサンドライトの夜
【Ⅱ】未必の累
《1章》始まりの言の葉―はじまりのことのは―
未必とは「必ずしもそうならない」という意味を持つ言葉らしい。
初めてそうリンクが認知したのは、ゼルダ姫の探していた蔵書を高棚より取ろうとした時だった。出会ったことのない言葉にリンクは本を手渡す前に、手早く辞書を引いた。
俺の知らない言葉がまだあるんだな。
リンクは素直にそう思った。白く細い指先に探し物の本を手渡す。鈴の声がお礼の言葉を象る。一瞬にして囚われて、ハッと我に返った。時間にすれば刹那。姫の己より澄んだ青に、長く伏せられた睫毛に魅入られていた。手を離すのが僅かに遅れ、指先に姫の温かな指先が触れた。
「あ」
短い声が上がって、本は向き合った二人の間に落ちた。
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