伊月誕生日小説『11月4日、夜だけでいいから空けれるか?』
夏も終わり、秋の夜長にかかってきた電話の終盤。途切れた話題の隙間を埋めるように、静かに切り出された。
何故、なんて野暮なことは聞かない。ガッちゃんと出会ってから17回巡ってきたその日。今年はこれまでと意味合いが違うのも、ちゃんとわかってるつもりだ。
問題ない、なんてしれっと返したものの、心臓はずっとうるさくて。通話終了後に、思わず握りしめたクッションに話しかけてしまうくらいには浮かれていた。
「…まずい、緊張してきた。」
そんなことがあったのが、かれこれ二週間くらい前。多忙な日常をこなしていたら、あっという間に当日になってしまった。
今日までに教えられたのは、食事に行くつもりだということと、その店にはドレスコードがあるってこと。それから、渡したい物があるから先に家に寄ってほしい、ということ。
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