夏雪の日に会った人 本編1話 暖かいのに、手のひらに落ちる結晶は冷たい。
今日も一日、真夏の空からは雪が降り続けている。その理由を知っている人間はいない。知らないことが当たり前のことだから、誰も気に留めないのだ。しんしんと降る雪は確かに本物であり、このコル=ニクスという国ではもう何年も続いている自然現象だった。
気温は高いため、雪が積もることはない。しかし、雪を見るとつらいことを思い出す。幼い頃に姉が雪の日に亡くなってしまったときのことは今でも悪夢に出てくるほどだ。ヨエルにとって雪が降り続くことは、悪夢が続いていることと同義だった。
「……なんで雪ばっかり降るんだよ」
通学路を歩くその足取りは重い。せっかくセットした髪も、雪による湿気でぺたんとしている。困ったときに左の泣きぼくろのあたりを指で軽く掻いてしまうのは昔からの癖で、ヨエルは度々母に小言を言われていた。今は寮で暮らしているため母はいないのだが、寮母にもその癖を指摘されてしまっている。
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