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    みつみ|なつき

    @mitsumine_333

    一次創作の表に出せない話とか

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    みつみ|なつき

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    異世界に迷い込んだ少年×異世界で暮らす少年
    の、本編少しだけ載せます💭

    CPはエン×ヨエルのみです〜。生意気×生意気。

    #創作BL
    creationOfBl
    #創作BL小説
    creativeBlNovels
    ##夏雪の日に会った人

    夏雪の日に会った人 本編1話 暖かいのに、手のひらに落ちる結晶は冷たい。

     今日も一日、真夏の空からは雪が降り続けている。その理由を知っている人間はいない。知らないことが当たり前のことだから、誰も気に留めないのだ。しんしんと降る雪は確かに本物であり、このコル=ニクスという国ではもう何年も続いている自然現象だった。
     気温は高いため、雪が積もることはない。しかし、雪を見るとつらいことを思い出す。幼い頃に姉が雪の日に亡くなってしまったときのことは今でも悪夢に出てくるほどだ。ヨエルにとって雪が降り続くことは、悪夢が続いていることと同義だった。
    「……なんで雪ばっかり降るんだよ」
     通学路を歩くその足取りは重い。せっかくセットした髪も、雪による湿気でぺたんとしている。困ったときに左の泣きぼくろのあたりを指で軽く掻いてしまうのは昔からの癖で、ヨエルは度々母に小言を言われていた。今は寮で暮らしているため母はいないのだが、寮母にもその癖を指摘されてしまっている。
     兎にも角にも、ヨエルは感情が顔や仕草に出やすいようだ。自分では自覚がないけれど、級友たちにもしょっちゅうからかわれている。だが、本当に隠してしまいたい心の内は誰にも気づかれていない。気づかれたくもない。
     自然と出てしまった溜め息は、しかし大気が冷えているわけではないため白くなることはない。この雪は空にかかった魔法の影響で降っており、言わば人口の雪なのだ。
     学生鞄を肩に提げ、てくてくとレンガの道を歩いていると、アイタス魔法科高等学校の校舎が見えてくる。ここの一年生として入学してから半年ほど経ったが、授業はあまり面白くない。ヨエルがぼうっとしながら前を眺めていると、そこにぽつんと佇む人影を見つけた。辺りをきょろきょろと見回しているようにも見える。
    「迷ったのか……?」
     この国は割と大きく広いため、地元の人間以外は道に迷ってしまうこともある。通学路にはヨエル以外に人はいないようだ。仕方ない、と頬を掻いてから、ヨエルは人影に向かって声をかけた。
    「あのー、道に迷ったんすか?」
    「……えっと、そうじゃ、なくて」
     どこか困った様子の、同じくらいの年であろう青年はぶつぶつと独り言を言い始める。言葉は分かる、息もできる、つまり……と思考を巡らせているようだが、彼はヨエルがここにいて、ヨエルが話しかけたということは忘れてしまっているのだろうか。何だか無視されているようで面白くないが、初めてこの国に来た人かもしれない。国民の印象を下げるわけにもいかないと思い、もう一度彼に話しかけることにした。
    「なにか困ったことでもあるんすか?」
    「あ、いや、困ったというか、なんと言うか……その、訊いてもいいかな」
    「まあ、俺に答えられる範囲でなら」
    「今、西暦何年? ここはどこ? どうして、暑いのに雪が降ってるんだ?」
     ずいっと近寄ってくる青年に、ヨエルはたじたじになる。質問が多いのが気になるが、それよりも彼の整った身なりに目を奪われる。青みがかった暗い髪色に、空のような瞳。少し垂れ気味の目尻が彼の印象を柔らかいものにしている。猫目のヨエルとは正反対だ。髪色も、自分のものよりかなり夜の色に近い。服装はこの辺りでは見かけないもので、爪先から襟元まで真っ黒だった。思わずまじまじと見つめてしまい、逆に彼が首を傾げた。
    「あの、もしかして答えられないとか?」
    「えっ? あ、いや、違くて! ええと、そもそも西暦ってなに?」
    「……西暦を知らないのか?」
     きょとんとした表情で、青年が問うてくる。他の国で使っている暦の読み方だろうか、とヨエルは考えるが、そのような国があるという話は聞いたことがない。
     この男、何か怪しい。ヨエルはごくりと唾を飲み込み、油断しないように彼の所作ひとつひとつを観察する。
    「ごめん、知らない。あんたの国ではそう呼ぶのか?」
    「国というか、世界かな。……次の質問してもいいか? ここはどこで、どうして真夏なのに雪が降っているんだ?」
    「…………はあ?」
     今度こそ、ヨエルは耳を疑った。この世界の人間は、この国に雪が降り続けていることを知っている。というのも、毎年雪についてのニュースが報じられており、『雪』というものが存在するのはコル=ニクスだけだからだ。
     こいつ、頭おかしいのか?
     ヨエルはあからさまに訝しげな顔をして青年を見つめる。すると、彼は戸惑いの表情を浮かべながら口ごもる。ふと、空色の瞳がこちらに向けられる。初対面なのに、その目に見つめられると弱い。
     ややあって、青年はゆっくりと口を開いた。
    「信じてもらえないかも、しれないけど。俺、その……別の世界から来たんだ」
    「ま、まさかぁ。そんなこと言って俺をからかってんだろ。空は飛べるんだろ? 魔法は?」
    「からかってない。空も飛べないし、魔法も使えない」
    「……本当に? まじで?」
     ヨエルが呆気にとられていると、彼が眉を下げて頷いた。嘘を言っているようには見えない。先程彼の中に微量の魔力を感じたのだが、自分の勘違いだったのだろうか。
     どうしたものか、とヨエルは考える。彼をこのまま放っておくのは後味が悪いし、かと言って授業を放棄するわけにもいかない。
     悩んだ末に、ヨエルは青年を学校に連れて行くことにした。学園長や生徒会長ならば、この状況をなんとかしてくれるはずだ。彼が大人しくついてきてくれるかは不明だが、それでもやるしかない。
    「あのさ、ここで話してても埒が明かないし、とりあえず俺が通ってる学校に行こうぜ。学園長はこの国でも一番の知識を持ってるって噂だし、その孫の生徒会長も優秀な人だ。きっとあんたの世界……ってやつについても分かると思う」
    「……本当か?」
    「多分。確証はないけど、なにもしないよりかはいいだろ。ほら、行くぞ」
     ヨエルがそう言うと、彼は不安そうに、けれどしっかりとした口調で「ありがとう」と礼を言った。やや低めの声は耳触りがとても良く、何だか少しだけ懐かしかった。
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