テセウスの船シライが書類に目を通している最中のことだった。
「だめだ、メモリがいっぱいになっちまった。わりーなシライ、一度再起動するぜ」
クロホンの軽快な声に、シライは一瞬顔を上げる。
「ん……ああ、わかった」
持ち主の了承を得たクロホンは頭上の小さなプロペラを止め、デスクの上に仰向けになる。画面からは人間の表情を模したいつもの表示が消え、代わりに再起動の進捗が機械的な数値で示される。
シライは画面の数字が少しずつ大きくなっていくのをぼんやりと眺めていた。
最近、このプロセスが増えてきたな、とシライは考える。以前なら滅多に起きなかった再起動が、今では日常の一部になりつつある。
再起動が完了すると、クロホンの画面が再びいつもの明るい表情に戻り、その声が響く。
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