おやすみなさい、良い夢を 夢の浅瀬から転がり落ちるかのように目を覚ました私は、薄闇越しに映る見慣れぬ天井に目を瞠った。
一瞬、伊豆の留置所と見間違えいたずらに脈が乱れたが、広々とした間取りから、今居る場所が諏訪の旅館であることを思い出した。
そうだ。伊豆の事件はもう一か月も前に終わったのだ。私が今此処に居るのは、昨日益田が家に来て、私に――。
俄かに高まった動悸を癒すべく巡らせた思考は、唐突に絡み付いた熱塊によって散り散りになった。
「えっ……榎さん……!?」
肩を掴まれたと思った次の瞬間、強い力で引き寄せられ、気が付くと私は長野くんだりまで来た原因――榎木津礼二郎その人の腕の中に捕らわれていた。
背中に張り付いた両腕がぎゅうぎゅうと圧を加え、硬く逞しい胸板に顔が押し付けられる。
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