天使になった日/正当防衛【天使になった日】
不二先輩はテニスが強くて優しくていつだってかっこいいのに、羽が生えてからの彼は随分ぽんこつっぷりが目立っていた。「いてっ」と声がすれば大抵羽をどこかにぶつけていて、俺が見ていることに気付くと「ぶつけちゃった」と、笑った。
「羽って痛みとか感じるんスね」
「うーん。羽自体に痛覚はないと思うんだけど、羽をぶつけると背中が引っ張られちゃってね」
その羽はとにかく急に生えてきて、俺たちの部屋を一気に狭くした。俺より背の低い不二さんに不釣り合いな、大きくて白い羽だった。たまに小さな羽が抜けては重力と空気抵抗を受けながらひらひらと落ちた。人間の髪の毛と同じだが、しっかりと目に見える分“羽が減っている”ということを嫌でも意識させられた。
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