こんな普通やったっけ 会ってない時の僕の中の狂児は実物より憎たらしい気がする。僕のやることなすことニヤニヤして観察しているし口も手も足も出す。いつも僕は僕の中の狂児に鼻を明かすような反論を考えて、怒っている。バイト先のファミレスで一人夜勤をしている間じゅうあいつがああ言ったらこう言うとシミュレーションをしていたら止まらなくなって、帰りの夜道で何故か泣けて来てしまった。あいつはほんとに憎たらしい男で僕はずっと被害を被っているのだ。
でもそうじゃないらしい。
蛍光黄緑色に光るイルカやクマノミが狂児の色男ふうにセットされた頭越しに踊っている。薄暗いカラオケボックスの四人部屋で僕は狂児の穏やかなカーブを描く眉頭を見つめていた。
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