その幻肢痛を撫でてやりたい(鍾タル) 誰かの代わりになるのも、止まり木扱いされるのも嫌だった。でも、もし彼が俺を望んで呼ぶのならば、ちょっとくらい隣にいてあげてもいいかなと思う。この感情に名前は付けられなかったが、要するに、そういう情だった。
鍾離先生の自宅を訪れたときには小降りだった雨も、今や本格的に降りはじめて雷鳴まで響く始末だった。体液まみれの身を清めた後でまた濡れる羽目になるのは億劫だったが仕方がない。ここに朝まで留まる理由も道理も持ち合わせてはいないのだから。
いつものように寝台から身体を起こす。滞在している旅館にも負けず劣らずの価格をしているのであろうこの寝台は、このまま眠ってしまいたいという誘惑がいつも頭をよぎる程度には寝心地が良い。いつも身綺麗にした後も、なんだかんだと暫く居座ってしまう。鍾離先生は何度も過ごした夜と何ら変わらず、寝台にはいたけれど身体を起こしたまま読書中だった。
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