そして再びワルツを 悪魔を、見たことがある。美しい人の姿をした、悪魔を。
「ボスは、どうかしています」
雪村が、仇のごとく伊藤をねめつける。日ごろのポーカーフェイスはなりを潜め、怒りが露わとなっていた。
「真経津晨のどこに、そこまでする価値があるんですか。どうしてまだ、奴を手に入れようとするんですか」
言葉が、呪詛のごとく紡がれていく。
「唯があんなことになったんですよ!?」
血を吐くような、雄叫びだった。長らく苦楽を共にした半身の、無残な末路。その姿が、雪村の脳裏に焼き付いて離れない。
「雪村、落ち着いて」
蔵木が、雪村をたしなめる。年下の同僚が激情に駆られた際、こうしてなだめるのが、年上の蔵木の役目だった。
蔵木の言葉に、雪村がもはやどうにもならない現実を思い出す。手をわななかせ、やがて爪が手のひらに食い込むほど強く握りしめた。そして、背筋を伸ばす。
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