知らず知らず期待していた放浪者の話名前は人生で最初の贈り物。
馬鹿らしい。それは人間のためのものであり、人形に名前なんて本来不要だ。呼び名があれば呼びやすい、身分が分かる、ただそれだけのものじゃないか。
だから『散兵』という名を捨てさえできれば誰に名を付けられた所で気にすることもない。そのはずだ。仮に僕に名を与えると言うのなら草神だろうが白い浮遊物だろうが、異世界の旅人だろうが誰でも構わない。
旅人の命名を黙って待つ。
適当なものが思いつかずに相当悩んでいるようだ。僕の名前ひとつでそんなに頭を悩ませる理由が彼にあるのか?
敵対していた。僕は旅人の大切な人々を間接的あるいは直接的に貶めたし、旅人のことも本気で殺そうとした。世界樹への干渉によりそれらは“今”の歴史的に言えば僕の行いではなくなったけれど、罪は罪。過去は全て僕の中にある。旅人も僕を警戒し、決して心を許してなどいなければ仲間だとも考えていないだろう。当然だ。そうあるべきだ。ここで簡単に絆されるような人間なら、とっくの昔に他人に騙されて寝首を搔かれていただろう。
2491