英雄は幼馴染の夢を見る桜の木の下で離した手は、永遠の別れを告げたわけではない。
少なくとも儂は――貴様の手の温度を忘れては居なかった。
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序
最近眠れていない。理由は明確である。此処が戦場だからだ。
眠れる筈も無いのは当然だと思われるだろう。其れは戦場を識らない者だからだ。
戦場に居れば其の様な考えが如何に甘い、机上の空論で有るかを思い知る事になる。
戦場に身を窶す者ならば、早くて一週間。遅くても一ヶ月も有れば布団の有難みを知り、いつ何時でも眠れるようになる。自然と成る物では無い。成らねば成らない。次の戦闘に備えて、だ。
男もそうであった。
部下を引き連れ、先頭を征く者。誰よりも先に戦場の過酷さに慣れ、大したこと無いと笑い飛ばし、却説、負傷した者は体を休めろと医務室に投げ飛ばして行く。
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