チョコレートよりもあまい むせ返るような、甘い香り。視界に入らない場所にまでばら撒かれたチョコレートの存在が、僕から自由を奪っていた。
下手に身動きすれば床やシーツや色々なものを汚してしまうのは明白で、僕は僕の上に跨った彼を突き飛ばすことをためらっていた。
「……団長さん?そろそろどいて欲しいなぁ~」
「ドランク、すっごく可愛いよ」
耳のあたりを撫でながら、うっとりとした目で言われて僕は呻くしかなかった。一体誰が、一回りも年上の男にこんなことを抜かすような残念な子に育ててしまったのか。彼が両親を知らないのは重々承知の上で、僕は心の中で問答する。
少なくとも、出会い頭で相手を押し倒すような行動を取らせているのは―彼をそういう風に狂わせてしまったのは―間違いなく僕自身なのだけれども。
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