プロポーズの夜 その夜、クレイジーロックはいつにも増してギャラリーが多かった。理由は分かりきっている。愛抱夢対スノーのビーフ観戦が目的だ。
トーナメント決勝で凄まじい戦いを見せた二人の再戦が行われるのだ。盛り上がらないわけはない。トーナメント決勝とは違いスタート前から二人ともどこか楽しそうだった。もっとも和やかという雰囲気からは程遠い。愛抱夢もスノーも本気だ。ギラギラとした闘気が全身から溢れている。
「賭けの賞品は何にするんだい? スノー」
愛抱夢は、唇の両端をオーバーアクション気味に持ち上げた。目元がマスクで覆われている以上、表情は口元だけで作るしかない。これはごきげんな笑顔のつもりだ。
「いらない」
「そうはいかないよ。トーナメントとは違うんだ。規則だからね」
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