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    いずみのかな

    @runco_a

    もともと創作文芸にいましたが最近は二次パロ小説ばかり書いてます。主にパトレイバー(ごとしの)、有栖川作家編(火アリ、アリ火)。甘くない炭酸が好き。

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    いずみのかな

    DONEパトレイバー。健全シリアス。一つの季節の終わりと、次の季節への眼差し。あるいは「友情というのは魂の結び付きである」。キン肉マン流に言い直すと「友情とは魂の結婚である」。
    後藤さんとしのぶさんの話ですが、ごとしのではありません。繰り返しますがごとしのではないので、ご注意ください。
    秋の気配、夏の終わり 入道雲が海の向こうからもこもこと沸いて来て、街を覆い尽くし雨をひとしきり降らせてから、一層の蒸し暑さを残して去っていく日々が続き、朝は蝉、夕方は雷でやかましかった夏も、気付けはもうその後姿を見せるようになっている。
     積乱雲の変わりに鱗雲やいわし雲が空を覆う日が少しずつ多くなり、吹き抜ける風は南から北に変わりつつある。ぎらぎらと輝きながら潮の香りをこれでもかと撒き散らしていた海も心なしか力無く見える、というのは単に見た人の心境の表れでしかないといえるが。
     隊長室の窓からは、草刈に精を出す隊員たちのにぎやかな話し声が聞こえてくる。ここ一週間は出動がかかることもなく、二課全体が落ち着いた雰囲気に包まれていた。牧歌的だねえ、と後藤は煙草をくわえながら思う。しのぶがいないことをいいことに、自席でのんびりと煙草の煙を吐き出しながらぼんやりと天井を見ていると、またうっすらとヤニに染まり始めた天井板が見えて、取り替えてまだ一年経っていないのに、と思わず苦笑してしまった。
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    いずみのかな

    DONE有栖川作家編。健全ホラー。
    『文が淵』と同じく、2004年、有栖川サイトの納涼企画ウェブアンソロに寄稿しましたものです。
    終盤のある箇所について、ウェブアンソロに掲載したときはタグで仕掛けを作ったのですが、pixivでは無理だったためそこのみ変更しております。
    ジャパニーズホラー、の王道目指して頑張りました。
    覗く目 太平洋上で台風が発生したらしい。
     しかし大阪上空は相変わらずの快晴で、気温は今日もうなぎ上りだ。私はだらしないと思いながらも首周りが伸びたTシャツを着て、昼前からソファの上でごろごろ寝そべっていた。日が高いうちに飲むビールは、ほんの少しの後ろめたさもスパイスとなって、また格別の味がする。何たる堕落、と咎めるなかれ。私はつい先程短編を脱稿したばかりなのだ。締め切り明けの作家のささやかな道楽としてここは見逃して欲しい。
     ビールを一本空けたらシャワーを浴びて、約三十時間ぶりにベッドに入るのが今日の予定である。明日のうんと遅くまで惰眠を貪り、それから週末で家にいるであろう京都の友人の所にでも出向くのもいいかもしれない。この二週間、会話を交わした相手は担当一人だけ、更に言うなら二度の電話の合計時間は十分に満たない。私は人に飢えている。
    20073

    いずみのかな

    DONEサイトを運営していたころ、広瀬彩夜子さまのサイト「#∧♭」に差し上げたものです。
    お題は「春の海ひねもすのたりのたりかな」でした。
    春の潮騒 日差しがじりじりと背を焼いていく。
     手に持って歩いているジャケットもただ暑く邪魔苦しい。白い煉瓦敷きの道に歩く人影は少なく、まるでがらんとしたこの街に自分たちの足跡が響き渡り、何度も反響しているような錯覚すらしてくる。全面ガラス張りの建物たちは陽光を遠慮なく乱反射させ、せめてもの言い訳のように植えられた、細く頼りない街路樹を黒く浮き上がらせていた。しかし、影はそれ程濃くはない。まだ夏には遠いからだ。
    「暑いな」
     横を歩く男が、足を止めて呟いた。Yシャツの袖はとうに捲くられ、少し皺が寄ったハンカチで首筋を拭う。
    「殆ど風が無いからな」
     有栖は返して、隣に立ち止まった。歩道は煉瓦と青いガラスによる洒落たデザインが施されている。しかし、ガラスが嵌っていただろう場所は大抵ぽっこりと穴が開いていた。確かにガラス製の煉瓦はオブジェとしても美しいだろうが、だからといって歩道に埋まっているものをわざわざ外して持って帰るのは酔狂としか言い様がないだろう。
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    いずみのかな

    DONEそれほど暗くはないですが少し不思議な死にネタです。苦手な方はくれぐれもご注意ください。
    どこまでも君の声を抱いて。
    Hello, my friends 最期はあっけなかったって警察の方が、ほらあの子、あこぎな職業だしそれでなくてもあの性格だから、畳の上じゃ死ねないよ、って軽口をよく叩いちゃってね……せめて苦しまなくてよかったですよ。
     そんな風に泣くこともなくつぶやく彼の姉の横顔を、しのぶは無表情で聞いていた、
     同僚であったのは五年と少し。自分が人より物事に対して敏感で極めて優秀であることを誰よりも疎んでいた男は、結局その能力ゆえにまた厳しい戦いの世界に呼び戻されて世界を飛び回り、そして最期の勤務地はロンドンだったという。スコットランドヤードに向かった帰り、たまたま降りたチューブの駅で起こった一度目の爆発テロの際、倒れてきた瓦礫に挟まっていた褐色の肌の少女を助けている最中、時間差で起こった二度目の爆発で、その少女や多くの逃げ惑っていた駅の利用者――職員、住民、そして多くの観光客と共に、男は逝った。お前なにやってるんだ、と咄嗟に制止しようとした同僚に叫んだ最後の一言は「放っておけないでしょ、見てみるふりなんてしたら、俺、帰国してあの人に顔向けできないじゃない!」だったという。
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