八丈島近海から帰還した数日後。
組織が幾つか持つ、拠点のひとつにて。
「あの議員、命拾いしたそうだな」
さほど興味のなさそうな呟きに、ウォッカはぎくりと肩を強張らせた。
振り向くと、口の端に煙草を咥えたジンが、長い脚を組んでソファに腰掛け、その膝に新聞を広げている。切れ長の双眸を緩く伏せ、退屈そうな表情は物憂げにも見える。
何気ない日常の仕草も、兄貴分にかかれば映画のワンシーンのように、俳優のブロマイドのようにサマになってしまう。
……いや、今はそんなことを考えている場合ではなく。
あの議員、とは、マリオ・アルジェントのことだ。EU議会の議員であり、老若認証システムの開発者、直美・アルジェントの父親。
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