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    ya_so_yan

    @ya_so_yan

    9割文章のみです。勢いで書いたものを置いておきたい。後でピクシブに移すことが多いです。

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    ya_so_yan

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    ※黒鉄ネタバレ含みます。
    ※ウォカさん射撃下手とか言われてます。
    ※なんかよくわからない話。
    コルンが機嫌悪い話(文)。ジンウォカ、コルキャンなんとなく含みますが別になんてことないです。でもコルキャンは会話だけイチャついてます。
    ウォカさんがデカい男二人に挟まれてアワアワします。
    ちょっとだけバドスさんの話が出ます。なんか苦労してます。

     八丈島近海から帰還した数日後。
     組織が幾つか持つ、拠点のひとつにて。


    「あの議員、命拾いしたそうだな」

     さほど興味のなさそうな呟きに、ウォッカはぎくりと肩を強張らせた。
     振り向くと、口の端に煙草を咥えたジンが、長い脚を組んでソファに腰掛け、その膝に新聞を広げている。切れ長の双眸を緩く伏せ、退屈そうな表情は物憂げにも見える。
     何気ない日常の仕草も、兄貴分にかかれば映画のワンシーンのように、俳優のブロマイドのようにサマになってしまう。
     ……いや、今はそんなことを考えている場合ではなく。

     あの議員、とは、マリオ・アルジェントのことだ。EU議会の議員であり、老若認証システムの開発者、直美・アルジェントの父親。
     直美に協力させるための脅しーー素直に従わなかった制裁とも言うが、とにかく、見せしめにコルンがドイツにて狙撃してみせた男である。

     そのアルジェント氏が奇跡的に一命を取り留めたニュースなら、実は、ウォッカは先に速報を耳にしていた。
     しかし、ジンに報告するタイミングがなく……というより、兄貴分は既に興味を無くしていると思い、敢えて伝えていなかった。
     ……いや、本当に正直なところを言うと、ただでさえ不発と言っていい結果に終わった任務のせいで一時かなり荒れていた兄貴分を、更に煩わせたくなかった。
     決して、その矛先が自分に向くことを恐れたわけではない。誓って。

     というわけでウォッカは、いかにも兄貴分の呟きで初めて知った、という反応を装った。

    「へぇ〜、そうでやしたか。ずいぶんと悪運の強ぇ奴ですね」

     ジンは、新聞に伏せていた視線を上げる。へらりと笑みを浮かべて自分にへつらう弟分を見遣る。
     特に何を言うでも、問い詰めるでもない。しかし、じっと見据えられているだけで、ウォッカは気が気ではなかった。

    「……嗚呼、そうらしい」

     結局、ジンがこぼした感想はそれだけだったが、どことなく鼻で笑うような気配があった。
     下手なごまかしを見透かされた。そのうえで、見逃された……確証はなかったがそんな気がして、ウォッカは思わず取り繕うことを忘れ、肩の力を抜いた。
     力が抜けたところで、つい、彼の悪癖が顔を覗かせる。つまり、口が軽くなった。

    「いやぁ、状況を聞く限り、まず助からねぇと思ったんですがねぇ。確かに頭に一発喰らったって話だったんですが。しっかし、あのコルンがやり損ねるなんて、珍しいことも」

     次の瞬間、背筋にゾクっと悪寒を覚えて、ウォッカは硬直する。

     突如として急変した室内の空気に、兄貴分の機嫌を損ねたのかと、咄嗟に彼の顔色に注意を注ぐ。
     が、悠々とソファに身を預けたジンがこちらを見る眼差しには、剣呑な色ひとつ浮かんでいない。
     代わりに、軽く驚いたように目を見張っている。兄貴分にしては珍しい表情だった。
     その視線が自分を通り越していることに、ウォッカはようやく気がついた。

    「……戻ったか、コルン」

     ジンが口にしたコードネームに、ウォッカは恐る恐る背後を振り返る。
     そして、思わず息を呑んだ。

     いつのまにか、ジンに負けず劣らず長身の影が、ウォッカの後ろにそびえるように立っていた。
     コルン。寡黙だが、信頼に足る腕前のスナイパー。
     実行部隊の一員としてすっかり慣れ親しんだ仲間……なのだが、ウォッカは彼を前にして、身動きがとれなくなった。

     なぜなら、今もまさにウォッカの背筋を襲っている怖気(おぞけ)は、彼によってもたらされているとわかったからである。

     野球帽の影とサングラスによって目元が隠れ、ただでさえ希薄な表情はうかがえない。それはいつものことだ。
     しかし、この時の彼はそれに加えて、得体の知れない……近くにいるだけでヒリヒリとするような空気をまとっていた。
     ジンが放つ殺気ほどではないにしても、それに近いほど物々しい気配を、コルンは立ち上らせていた。

    「よ……よォ、お疲れさん……!」

     刺激してはならないと直感的に悟り、ウォッカはなるべく普段通りに接しようと努めた。が、顔も声もひきつるのが抑えきれていない。

    「…………」

     対して、コルンは口を引き結んで沈黙している。
     口数が少ないのはいつものことだ。しかし、今日の沈黙は普段より、重い。

     ウォッカは思い出した。以前にも、コルンがこんな調子になったことがある。

     あの時も、何かの仕事で彼は仕損じた。そして戻ってきた時、ちょうどこんな、誰も近づけないような雰囲気をまとっていて、すれ違う者の肝を潰していた。
     暴れたりはしなかったが、確かカルバドスが射撃訓練場に引き摺り込まれ、二人して半日以上出てこなかった。
     結局、力尽きてようやく解放してもらえたカルバドスは憔悴しきっていて、「しばらく銃を見るのも嫌だ」とぼやいていたっけ。彼もまたスナイパーだったにも関わらず。
     コルンはよほど体力の化け物なのかピンピンしていた。憂さ晴らしにたっぷりと撃ちまくって、結局それで落ち着いたか、どうだったか……
     とにかく、手当たり次第“実物”を撃ちに彷徨い出なかったのが不思議だと思えるほどの状態だった。

     いくら名手とて、百発百中というわけにはいかない。コルンも、仕留め損ねるたびに“こう”なるわけではない。
     しかし、どういうタイミングなのか、稀にコルンは、そこにいるだけで恐ろしいような気迫を発することがあった。口も態度も乱暴な者が数多い実行部隊の中で、普段は大人しいとさえ言える彼が。
     条件はわからないが、強いて言えば……彼なりの、狙撃手としてのプライドが傷ついた時かもしれない。

    「……あ、あんまり気にするこたぁねぇよ、な? 聞いたぜ、奴さんを逃がさねぇように、走行中のトレーラーのタイヤ撃ってひっくり返したって。さすがだよなぁ。おかげで護衛の車も来られず、袋のネズミってわけだ。大した機転だぜ」

     どうにかフォローしようと、ウォッカが強いて明るい調子でぺらぺらと話しかける。
     が、コルンは答えない。口を引き結んで、無言で突っ立っているまま。
     いつにもまして、何を考えているのかまったくわからない。

    「ほ、ほら……結局、今回の仕事自体、空振りみてぇなもんだったんだから、やり損なったとしても問題ねぇって。ラムの旦那からも特にお咎めはなかったんだろ? だから……」

     コルンは相変わらず、答えるどころか頷く仕草ひとつしない。
     喋れば喋るほど窮地に立たされる気がして、ウォッカはいたたまれなさに耐えきれず、振り返る。

    「あ、兄貴ィ……!」

     弟分が助けを求める情けない声は、確かにジンに届いている。コルンと同じようにサングラスをしていても、ありありと窺える弱りきった表情も、しっかりと見えていた。
     そのうえで、兄貴分は何も答えない。新聞は閉じてテーブルに放ってしまい、代わりにもっと面白いものを見つけたとばかりに、ニヤニヤと笑みを浮かべながらウォッカとコルンを眺めている。
     完全に見物を決め込んでいる。

     助けが望めないとわかり、ウォッカはほとほと参ってしまう。
     そこへーー

    「……キャンティは」

     ようやくコルンの口からぼそっとこぼされた声は、心なしか普段より低かった。

    「え!? あ、あぁ、相棒を探してんのか?」

     不穏な声でも無反応よりはマシとばかりに、ウォッカは飛びつく。何より、今のコルンが何を求めているのか探るのは、この状況を打破するのに効果的に思えた。

    「ドイツ帰りのお前さんとは違って、もうとっくに戻ってるはずだが……どっかで入れ違いになったんじゃねぇか?」

     ところが、ウォッカの答えは満足のいくものではなかったらしい。
     またしばらく押し黙った後、コルンは顔を上げ、ソファの方へ鼻先を向けた。

    「ジン……練習、付き合ってほしい」

     ウォッカはぎょっとする。練習とは、当然、射撃訓練のことだろう。
     ジンと言えば、それまで傍観者を決め込んでいたところへ少しばかり不意を突かれた様子だったが。

    「ホォー……?」

     やがて、咥えていた煙草を揉み消しながら、のっそりと立ち上がる。
     その顔には、しどろもどろの弟分を見物していた時とはまた異なる類の笑みが浮かんでいた。どこか挑戦的な。
     緑の瞳に、微かだが、ぎらついた光が差している。
     ウォッカは、まずいと思った。

     ジンもライフルの扱いには長けている。ライフルだけではない、銃器なら大抵だが。
     撃つことが生き甲斐かというコルンやキャンティほどではないものの、兄貴分もまたベレッタの手入れを欠かさない程度には射撃を好んでいる。

    「いいぜ、久しぶりにやるか。“今の”お前がどんな記録を弾き出すか……面白そうじゃねぇか」
    「俺、撃ちたい……たくさん」
    「おう、構わねぇ。お前の気が済むまで付き合ってやるよ」

     意気揚々とジンが近づいてきたところで……ウォッカは、コルンと彼の間に立ち塞がった。

    「だ、駄目です、兄貴!」
    「あ?」
    「覚えてねぇんですか、前にカルバドスがひでぇ目に遭ったでしょう!」
    「さぁて、忘れたな」

     とぼけているのか、本当に忘れたのか。ウォッカには判断がつかない。

    「とにかく、駄目ですって! 兄貴、のめり込んだらいくとこまでいっちまうでしょう!」

     以前、カルバドスは体力の限界を自分で判断し、どうにか逃げ出すことができた。
     しかし、ジンはおそらく逃げられない……いや、逃げようとしないだろう。
     この男は一度興が乗ると、それ以外目に入らなくなる節がある。多くの場合、のめり込むことが多いのは仕事だったが、そうなると寝食さえウォッカが促さなければ忘れてしまう。疲労も空腹も感じていないかのように。肉体は人間なのだから、必ず限界があるというのに。
     そんなジンと、今の状態のコルン。非常に危険な組み合わせだ。ストッパーがいない。下手をしたら、射撃場にこもるのは半日では済まない。

    「あァ? ウォッカてめぇ……俺に指図たぁ、偉くなったもんだな」

     ぎろりと睨みを利かせられて怯むのも束の間、弟分はぐっと踏みとどまり、珍しく反発した。

    「ウッ……ぶ、ぶん殴られたって行かせるわけにゃいきやせんっ!」
    「ホォーーー?」

     普段のウォッカならすぐに引き下がる。そもそも兄貴分に逆らうことは滅多にない。
     だが、今はそうはいかない。
     なんといっても、兄貴分自身の身の安全がかかっているのだ。
     もちろん、コルンだって。元からタガの外れた状態なのに、ジンに引きずられれば更に悪化しかねない。
     そうなる前に二人を引き留めなければ、とウォッカは腹を決めていた。

     しかし。

    「ウォッカ……」
    「ひっ!?」

     ぬっ、と背後から伸びてきた手に肩を掴まれ、飛び上がりそうになる。
     後ろにいるコルンの手だ。ライフルを扱い慣れた手は、大きく硬い。

    「ジンと練習……駄目、か? どうしても」

     コルンが長身を屈めて、頭の位置を合わそうと耳元に顔を寄せてくる。
     乱暴な手つきでも動作でもなかったが、物々しい圧力が間近に降りかかって、ウォッカは震え上がった。

    「だっ……だ、駄目だ! どうしてもってんなら、お、俺が付き合ってやるから!」
    「ウォッカは、射撃、下手……ジンがいい」
    「駄目って言ってんだろ……!」

     もはや意固地になっていると、今度は正面からジンがずいと詰め寄ってくる。端正な顔が目と鼻の先に迫って、ウォッカは息を呑む。不機嫌そうに眉をひそめた表情さえサマになっている。

    「オイ、いい加減にしやがれ。付き合ってやらなきゃ、コルンも気の毒だろうが。なァ?」
    「ウォッカ……」

     いつのまにやら長身の二人に前から後ろから挟まれている。どちらからの圧も半端なものではない。

    「〜〜〜っ」

     ウォッカはそろそろ、この状況を処理しきれなくなりつつあったが、それでも。

    「だ、駄目ったら駄目だぁ! ぶっ通しで撃ちっぱなしなんて、二人とも死んじまうって〜!」

     悲鳴に近い声で訴えていた、その時。

    「あーっ、いたいた!」

     扉が開く音の後、その場にいる男たちの誰とも違う、甲高い女の声が割り込んだ。
     ハッとしたウォッカが振り向くより先に、コルンはウォッカの分厚い肩からあっさりと手を離し、すぐさまそちらへ向き直る。

    「……キャンティ」
    「戻ったって聞いたのに、どこ行ってたんだい、コルン! 探したじゃないか!」

     切り揃えられた髪を揺らしながら、眉を吊り上げたキャンティがつかつかとコルンに歩み寄る。

     ウォッカは愕然とした。
     肌をヒリつかせるような気配が、この一瞬で霧散している。

    「……ごめん」
    「別に謝ることないけどさァ」
    「違う……仕事のこと。俺、失敗した……」

     自身より小柄なキャンティを見下ろすコルンは、項垂れているようにも見える。

    「あぁ、例のドイツでのヤマかい?」
    「任せたって、言われた……なのに、しくじった。逃がさないつもりだった、のに……ごめん、キャンティ……」

     辿々しい言葉を途中で遮ることなく聞いていたキャンティは、腰に手を当て、軽やかに笑い飛ばす。

    「ハッ、馬鹿だねぇ、アタイに謝ることなんかないじゃないか。上からもお咎めなしだったろ? それに、アタイだって島で仕留め損なったんだ。おあいこさ」

     ウォッカがいくらフォローしても何の反応もなかったのに、キャンティにそう言われた途端、コルンは安堵したように溜め息をついた。

    「やっぱり……キャンティがいないと、俺……だめ、だ」

     普段通り、一本調子の淡々とした、ぎこちない物言い。けれど、どことなく真に迫ったような響きがした。

    「なっ、何言ってんだよ、まったく……ほんとに馬鹿だねぇ、あんたは」

     いかにも呆れたという調子だが、ちょっと目を逸らすキャンティの、勝ち気な眉が少し下がっている。声も心なしか柔らかい。
     やがて、彼女はコルンの腕をパシッと叩いた。

    「ほら、いつまでもしょげてんじゃないよ! 気晴らしに射撃場、行くかい?」
    「いい……それより、キャンティの話……俺と離れてた間の話、聞きたい……」
    「しょうがないねぇ。じゃ、アタイの部屋においでよ」

     踵を返すキャンティの後に、コルンは大人しく、行儀よくついていく。
     部屋を出ていく間際、長身の影からキャンティがヒョイと顔を出すと、じゃーね、とジンとウォッカに気安く、機嫌良く手を振った。

    「………」

     二人が出て行ったのを呆気にとられて見送りながら、ウォッカは思い出した。
     カルバドスがえらい目に遭ったあの時も、キャンティが任務の都合でかなり長くコルンと離れていたことを。

    「コルンの奴……キャンティに会えなくて、ヘソ曲げてただけなんじゃあ……」

     脱力した弟分の呟きを背に、ジンはすっかり白けた様子でソファに舞い戻り、肘掛けにそれぞれ頭と脚を引っ掛けて寝転んだ。

    「チッ、くだらねぇ。まるっきり癇癪持ちのガキじゃねぇかよ」

     そういう兄貴分こそ、遊び相手が帰ってしまって拗ねている子どものような態度だ……と思ったが、ウォッカは飲み込んだ。

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