飲んでも飲まれるな〜assortment〜1/3「やあ、奇遇だね」
高級車を降りてきて、帽子を脱ぎ礼儀正しく挨拶してくる老紳士に、キュラソーは面食らって立ち尽くした。
「ピスコ? えぇ、本当に奇遇ね……」
咄嗟に、周囲の様子を探る。
深夜の街角。ほとんどの店は閉まり、他に人通りもない。
「そう警戒しなくとも、私ひとりだよ。今夜は私用だからね」
「そんな、警戒だなんて」
するに決まってるだろ、と内心毒づきながらも、キュラソーは微笑んで見せる。
No.2のラムほどではないが、この古株の幹部もまた、組織内ではかなりの有力者。普段あまり気軽に顔を合わせるような相手ではない。任務でもない時に偶然出くわすというのは、どうにも出来すぎている。
とはいえ、実際に彼はひとりのようだった。暗がりに部下が潜む気配もなく、いつも傍らに控える息子同然の男の姿もない。
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