或る村の劇場私は、それを、終生忘れることがないだろう。
病によって黒く肌を染めた亡骸が、吊るされ、磔られ、飾られ、教会という劇場を踊る様を。
その奥、祭壇の前に腰を掛けてにこやかな弧を唇に描く男の姿を。
「希望を」
砂糖水のような、甘やかさと涼やかさを備えた声が、教会に反響する。
「描きたかったんだ。病の恐怖と嘆きに震えるこの地にも」
男が立ち上がる。私は蛇に睨まれた蛙のように動けない。背後に引き連れた若者達は、ヒ、と声を漏らしたり、情けない悲鳴をあげて逃げ出したり、散々だ。一歩、後退る者もいた。
「可憐な面差しも、精悍な顔立ちもいい。美しいものは大好きさ。それでも、もっとも美しいのは」
男が、佇む一つの亡骸を腕に抱いた。軽やかな足先は、それを抱えたまま優雅なステップを踏んで踊る。
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