総長戦・序幕 かくも静かなクルザスが、あっただろうか。
主を失った羊たちは呼吸を止め、虫達は終わりのない眠りに就いた。草花は根雪の下で、いつ来るとも知れぬ春を待つ。荷車を引いていたチョコボは、深雪に溺れ、荷を降ろして首を横たえた。
クルザスの樹々はあるだけ全部切り倒され、全て暖炉にくべられた。だが火を焚いても焚いても、救えぬ命があった。寒さだけではなく、人々を覆う絶望に凍えて絶えたのだ。イシュガルドの雲霧街の掃除屋はひどく金を儲けたが、薪は市場に出回らず、やはり彼らも荒れた石畳に等しく倒れ伏した。
皇都の大聖堂や教会に、救いを求める人々がなだれ込んだ。修道士らは寝る間をを惜しんで人々を保護し続けた。孤独が拭われた安心感からか、人々はいくらか暖かさを味わった。行けば食糧と寝床が得られると聞いた人々が、クルザスの遥か遠くからやってきた。ゆえに、備えはものの数週間で無くなり、人々はかつてない飢えを経験した。腹の虫は、とうの昔に鳴き方を忘れた。人々は声も上げず、身体を大聖堂の毛布一枚の上に横たえ、眠るように死んでいった。彼らには、最早食糧を奪い合う力さえ残されていなかった。
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