さよなら逃避行 電車は夜と雪の中を走る。ガラス窓にぶつかる雪がぱたぱたと音を立て、ぼくはひんやりとした感触に頭を預けながらぼんやりとそれを見つめている。四人掛けのボックス席。向かい側と通路を挟んだ横には誰もいない。この電車の乗客自体、きっと片手で数えられるくらいだろう。
たたん、たたん、と電車は規則正しく休まず走り続け、エンジンシティを出てからもう何時間経ったのか。途中、ブラッシータウン駅で数分の待ち合わせをして、そこからはどの駅にも停車していない。おそらく特急列車なのだろうけど、終点まであとどのくらいかかるのか、ぼくにはわからない。ぼくのすぐ隣でぼくの右手をしっかりと握ったまま寝息を立てているこの子に聞けばわかるだろうか。顔と目線を少しだけ下に向け、ぼくの肩にもたれている頭を見つめながら、自然と口元に笑みがこぼれた。
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