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    秋月

    waremokou_2

    DOODLE秋月家の強幻覚
    もっと知りたいという意味(脅迫)を込めて出しました。
    「あ」「お……」
     ばったりと出くわした二人はピタリと声をそろえて向かい合う。ドーム状の天井があるとはいえ、この時期商店街を吹き抜ける風は冷たい。それでもジャケットとジーンズだけの三毛縞の前に立つこの男――秋月佳輔はいつものスラリとした四肢にこれでもかと重ね着しているように見える。
    「そんなに寒がりだったか?」
    「いや、ちょっと買い出しに行くって言ったらみんなが着てけって」
    「ハハ、そりゃ間違いねえ」
     普段の見慣れた姿よりややもふりとした秋月は、動きにくそうにしながらも彼らの営む喫茶店――ダリアの方へと向かっていく。
    「帰るとこか?」
    「ああ」
    「じゃ、豆買いに行くわ。お前さんの顔見て思い出した」
     そりゃどうも、と並んで歩く三毛縞は、店を一軒通り過ぎるだけであちこちから声を掛けられている。秋月もかなり顔なじみになっているとはいえ、その呼びかけられる確率の高さは彼の父・秋月崇彦にも負けず劣らずの人気っぷりである。本人は歩く速度を変えることもなく、へらりと気の抜けた挨拶を返すだけで、まっすぐ店に帰る秋月についてきている。昔と同じだ。妙な猫に声を掛けただけでどこまでもついてきてしまったあの時と。三毛縞は相変わらず歩くだけで目立つ。秋月もいくらか声を掛けられたが、いつもよりずっとその声が多かったのはひとえに、三毛縞の隣にいたからだろう。
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