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DONEワンライお題「二度目のキス」(時間オーバー)「何を舐めている?」「レモンキャンディ……だ、そうだ」
風の無い夜だった。
騎空艇の甲板で島々の夜景を眺めながら、ジークフリートはパーシヴァルの質問に対してやや舌足らずな発音で答えた。その口元は咥えた飴玉を転がすことに忙しいようで、喋っている最中にもしきりにうごめいている。
「どうしたんだ、それは」
「貰った。団員の土産だそうだ。個包装になったものが食堂に大量に積まれていてな、たくさんあったから俺もひとつ頂いてきたんだ」
「……そうか」
パーシヴァルは後ろめたさを抱えながら、ジークフリートの唇をちらちらと横目で盗み見ていた。彼の視線は艇の外、眼下の景色に注がれていて気づく様子は無い。
まるく明るい月に照らされた唇の膨らみは品の良い厚みがあり、肉感を思わせるかたちをしている。ふっくらとしていて実に柔らかそうだ。それから、時折、チロリと覗く舌先が濡れた気配を纏いながら唇の表面を舐め、乾いた膨らみに少しの艶を添えてすぐに引っ込むしぐさをする。それがどうにも見ていて後ろめたい。見え隠れする舌が唇の合間を出たり入ったりするたびにパーシヴァルはなにか好ましくない衝動を持て余し、いったん視 2875
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DONEワンライお題「怪我の手当て」「これで良し……、と」ジークフリートの背中と腕に巻いた晒し布を固定する。きつくなりすぎぬよう、解けたり緩んだりすることのないよう、慎重に。包帯を巻く技術などかつて騎士団で練習して以来一度も学んでいないが、ここ最近はジークフリートの怪我の手当をパーシヴァルが主に担当しているため随分と上達してきたように思う。
毎回のように負傷して帰ってくるジークフリートの面倒を見るのは、騎空艇で隣室を与えられているパーシヴァルの当然の役割であろうと思うから、そのこと自体には何の不満も無い。しかし、ひとりで勝手に艇を降りてはどこぞで大怪我をして帰ってくる――ということを何度も繰り返すジークフリートに対しては言いたい文句が山のようにある。
危険なことをするな。周りの人間を心配させるな。そう言うと彼は決まって、けろりとした顔で「俺は平気だぞ」と言うものだから、話はいつだって通じないし、パーシヴァルの想いが届くことも無いのだ。昔も今も、おそらくはこれからも。
「すまんな。手間を掛ける」
「過ぎたことを責めるつもりはないが、次は気をつけろ」
「わかった」
ことばの上では従順だが、次もまた怪我をして帰ってく 2884
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DONE「昨日の夢と今日の過ち」2021年3月21日全空の覇者17で配布した無料ペーパーに載せたものです。
貰って下さった方ありがとうございました~!
黒竜騎士団時代の話です。Rはつきませんが若干スケベです。夜も更けた薄暗い城内の廊下を、パーシヴァルはひとり、急ぎ足で宿舎の自室へと向かっていた。
騎士団の皆はもうとうに寝静まっている。パーシヴァルはというと、黒竜騎士団の副団長に叙任されるにあたって必要な書類を揃えていたら思ったよりも時間がかかってしまい、気がついた時には辺りがすっかり暗く、静まりかえっていたのだった。
複雑な仕事をしていたわけでもないのに無駄に時間が掛かったことには、理由がある。
昨夜見た夢のせいだ。誰にも言えぬ、ひどく不埒な夢を見た。騎士団長のジークフリートと自分が何故か恋仲になっていて、ふたりでベッドに上がり、裸で抱き合う夢だった。
奇妙なまでに五感の伴う夢で、自身で服を脱いだ彼が晒した素肌の色や、その艶めきの臨場感は今でも手に取るように思い出せる。夢の中のジークフリートはパーシヴァルの身体をベッドに押し倒し、自ら脚を開いて挑戦的にパーシヴァルを誘った。パーシヴァルは興奮して自制心をなくした状態にあり、晒された内腿の肉感に躊躇うことなく欲情した。その情動は夢のくせにあまりに強烈で、目が覚めて時間が経過した今も感情の内側に居座ったまま残ってしまっている。全裸の彼の 4494
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DONEワンライお題「一緒に眠る」ふと、控えめなノックの音が響く。深夜の騎空艇に聞こえる音と言えば艇の駆動音と風の音ばかりであるのが常だ。空耳を疑い、パーシヴァルは耳を澄ました。しばらく返事をしないでいると、少し間を置いてからもう一度、コンコン、と微かなノック音が聞こえてくる。
「入れ」
時間が時間だ。こちらが就寝している可能性を考慮しての遠慮であろう。
訪ねてきているのは、おそらく――。
「……すまんな、夜更けに」
開いた扉からジークフリートが姿を見せた。
最近、時々こういうことがある。夜も更けてパーシヴァルが就寝しようとする頃、見計らったようにジークフリートが部屋を訪ねてくるのだ。今宵で三度目だ。今日は今までで最も時刻が遅い。
「どうした。共に酒を飲む相手でも探しているのか」
「いや……、それもいいんだが」
「今宵は飲まんぞ。もう遅い。明日に響く」
「酒はまた今度でいい」
扉を閉めたジークフリートはその場に立ち尽くしている。パーシヴァルは軽く首を傾げて「どうかしたか」と尋ねてみた。
「一緒に寝ても良いか」
思わぬ事を請われる。
パーシヴァルは顔を上げてジークフリートの目を見た。
「……構わんが」
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