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    mizus_g

    @mizus_g
    パージクとたまにヴェラン 字書き

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    mizus_g

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    ワンライお題「二度目のキス」(時間オーバー)

    #パージク

    「何を舐めている?」
    「レモンキャンディ……だ、そうだ」
     風の無い夜だった。
     騎空艇の甲板で島々の夜景を眺めながら、ジークフリートはパーシヴァルの質問に対してやや舌足らずな発音で答えた。その口元は咥えた飴玉を転がすことに忙しいようで、喋っている最中にもしきりにうごめいている。
    「どうしたんだ、それは」
    「貰った。団員の土産だそうだ。個包装になったものが食堂に大量に積まれていてな、たくさんあったから俺もひとつ頂いてきたんだ」
    「……そうか」
     パーシヴァルは後ろめたさを抱えながら、ジークフリートの唇をちらちらと横目で盗み見ていた。彼の視線は艇の外、眼下の景色に注がれていて気づく様子は無い。
     まるく明るい月に照らされた唇の膨らみは品の良い厚みがあり、肉感を思わせるかたちをしている。ふっくらとしていて実に柔らかそうだ。それから、時折、チロリと覗く舌先が濡れた気配を纏いながら唇の表面を舐め、乾いた膨らみに少しの艶を添えてすぐに引っ込むしぐさをする。それがどうにも見ていて後ろめたい。見え隠れする舌が唇の合間を出たり入ったりするたびにパーシヴァルはなにか好ましくない衝動を持て余し、いったん視線を逸らすのだった。
    「レモンと言っても酸味が控えめで、なかなか美味い」
     穏やかにうっとりとした響きを持たせて、ジークフリートが呟いた。
     夜の静寂に編み込まれたような艇の駆動音が――普段はまるで気にならないはずのそれが、今宵は妙に心を騒がせる。
     唇に、触れたい。奪いたい。
     よくない衝動だ。
     先日、彼に長年の恋慕を教えた際に初めて唇を交わしたのが、ひと月……いや、ふた月ほど前のことだろうか。それ以来さりげなく機会を窺ってみても、ムードを作って誘導してみても、言葉でほのめかしてみても、彼がくちづけに応じることは一度も無かった。きっとジークフリートにはその気が無いのだ。そう判断したパーシヴァルは求めることを諦め、キスなどしなくともこうして隣に居てくれるだけで不満は無いと割り切った。彼を恋う気持ちを否定されなかっただけで充分だ――と。
     しかし今宵はどうも感情のコントロールが利いていない。心の底に巣くう凶暴な欲求が、じゅくじゅくと疼いて内側から殻を食い破ろうとしている。
     持て余す前にこの場を離れたほうがいいだろうか。
     ジークフリートとはたまたま出くわしただけで、もとより用事があるわけではない。彼と別れてしまえば心の迷いも失せるはずだ。
    (だが、もう少し……)
     もうすこしだけそばに居たい。
     その姿を見ていたい。叶わないのだとしても甘く期待し、密やかに夢想したい。
     しかしそれはきっと危険だ。彼にとって気が進まぬことを強要するのは乱暴であろう。このまま彼の唇を眺め続けていれば遠からず爆発してしまうだろうから、本当は今すぐに目を閉じ深呼吸をして踵を返すべきなのだ。頭ではわかっている。
    「ああ……もうなくなってしまう。惜しいな、もうひとつ貰ってくれば良かった」
     ぺろり、と何気なく唇を舐める舌先に再度心を奪われて、パーシヴァルは息を止めた。
     夜の闇に紛れた粘膜の赤が、魅惑的に、強烈に熱情を誘う。
    「うん? どうした、そんなに、物欲しそうな目をして」
     ジークフリートがこちらを向く。満足げで穏やかな瞳が微笑したままパーシヴァルの意識を捉えた。
     パーシヴァルは呼吸を止めたままジークフリートの思惑を探ろうとする。無邪気か、それとも何らかの心算があるのか。
     見つめてみても解るはずなど無い。なにせこちらは呼吸もままならないほど感情が高ぶっているのだから心理戦は分が悪かろう。ゆっくりと、音を抑えて息を吸い、そのあとで溜め息を装いつつ吐き出す。長く引かせた吐息に重ね、パーシヴァルはゆるく頭を振った。
    「……そんなつもりはない」
    「なんだ、そうなのか。俺の口でも吸いたいのかと思ったんだが……」
     さらりと言い当てつつ、ジークフリートが首を傾ける。
    「そうか。違うのか」
     長い髪の毛先がわずかに揺れる。誘うように。
     彼の声がいくらか上擦っていることに、遅れて気がついた。こちらを向いて甘く微笑むその瞳を見据えると、淡い金色の光彩が潤んでいて、そこに春情にも似た興奮がわかりやすく染み出していることを知る。
     ジークフリートの言葉を肯定すべきか否定すべきか判断がつかぬままパーシヴァルは感情を乱した。口を吸いたいと告げていいのだろうか? 何を望まれているのか、正解がわからない。ジークフリートの声だけが、耳の奥で恋しさを孕んで乱反射している。
    「俺は……お前が嫌がることはしない」
     ジークフリートにまっすぐ向き合い、腕を出して二の腕を掴む。鎧を身につけていない腕を、服の袖ごと、少し指先が食い込むくらいに。
    「それとも、されたいか?」
     逃がすまいという想いが先走って指先に力が入る。
     ジークフリートは無反応だ。拒絶する様子もない。しかしおそらく、幾らかは怯んでいる。
     こうなったらもう、このまま今宵のうちにどうにかしてやる――噴き出す感情の攻撃性を抑えることが出来ぬまま、パーシヴァルは瞳を見開き、奥歯を食い縛った。獲物を捕らえた肉食獣のような気分だ。欲望のままに貪り散らかしたら彼は怒るだろうか。傷つくだろうか。理性と良心が暴れて心がずきずきと痛む。脳裏が過熱して思考が繋がらなくなる。欲しくて、恋しい。
     ああ、だから、彼さえ満更でもないと言うのであれば、……。
    「……俺の方から欲しがるのは、どうも、な」
     潤んだ瞳を半分ほど伏したジークフリートの声音は掠れていた。
     期待に濡れているようでもあった。
     夜の薄闇の中に色を溶かすように、彼の頬は見破りにくい赤みを帯びているように見えた。
     本能を刺激され、迸る衝動のままに距離を詰めて顔を寄せる。掴んだ腕をその身体ごと引き寄せて唇を奪う。押しつけて重ねた感触はひどく熱かった。顔をかたむけ唇をこすり合わせながら、ふと我に返ったように指先の力を緩めて掴んでいた上腕を解放する。拘束を解いてもジークフリートは逃げようとはしなかった。
     詫びるように腕を撫でて、筋の膨らみに沿って指を滑らせる。ジークフリートの腕と肩が、ひくひく、と甘い痙攣を起こしたかのように少しだけ震えた。
    「……乱暴にした。すまない」
     離れようとすると、触れ合っていた唇が無言で追い縋ってくる。
    「……おい」
    「いい。このまま」
     かすめ取るようなキスを仕掛けられたあとで、ジークフリートは瞳を閉じてかぶりを振った。いつの間にか手首を強く掴まれている。痛いくらいだ。勢い余ったような舌先がパーシヴァルの唇の表面を舐めて、微かに濡らされる感触で唇全体が熱を持った。甘酸っぱい果実の味が口内に染み込んでくる。レモンキャンディ、とつたなく発音したジークフリートの声が頭の奥に反響する。
    (酸っぱくて、甘い)
     舌の脇に唾液が湧き出した。
     唇を押しつけてくるジークフリートの気配に、溺れる。
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    mizus_g

    REHABILI去年の秋にいただいたリクエストというかシチュエーションで「去年のイベント後、ウェールズに帰るパに、見えない不安を隠して寂しい気持ちを持っているジ、寂しさを嗅ぎ取ってギュンとくるパ」というものだったのですが想定よりジが素直になった気がしないでもない……けど寂しがるジってかわいいなあ。
    だいぶ時間経ってしまいましたがその節はコメントありがとうございました!

    ※イベント後の出来事については捏造です
     アルバノルムの軍勢が国境近くへ侵攻しているという情報が入ってから、数日。フェードラッヘは陣を敷いた軍勢を下手に刺激することのないようにと国境よりやや手前に騎士団の一隊を展開した。迎撃するには規模の足りぬ小隊であったが、背後の駐屯地にはいつでも援軍を出せるようにと騎士達が詰めている。しかし、敵勢と思しき軍は国境の僅か手前でぴたりと進軍を止め、動きの無いまま既に三日が経過していた。こちらの出方を窺っているか、あるいは何らかの事情があるのか――いずれにしろ攻め入ってこない以上はこちらから仕掛けることに大義は無い。動くに動けぬまま、前線や駐屯地では初日の緊張感が薄れ始めているとのことで、明日になって夜が明けても動きが無いようならば騎士団長であるランスロットが国境に赴いて様子を確認するという予定になっている。
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    mizus_g

    DONEワンライお題「一緒に眠る」ふと、控えめなノックの音が響く。
     深夜の騎空艇に聞こえる音と言えば艇の駆動音と風の音ばかりであるのが常だ。空耳を疑い、パーシヴァルは耳を澄ました。しばらく返事をしないでいると、少し間を置いてからもう一度、コンコン、と微かなノック音が聞こえてくる。
    「入れ」
     時間が時間だ。こちらが就寝している可能性を考慮しての遠慮であろう。
     訪ねてきているのは、おそらく――。
    「……すまんな、夜更けに」
     開いた扉からジークフリートが姿を見せた。
     最近、時々こういうことがある。夜も更けてパーシヴァルが就寝しようとする頃、見計らったようにジークフリートが部屋を訪ねてくるのだ。今宵で三度目だ。今日は今までで最も時刻が遅い。
    「どうした。共に酒を飲む相手でも探しているのか」
    「いや……、それもいいんだが」
    「今宵は飲まんぞ。もう遅い。明日に響く」
    「酒はまた今度でいい」
     扉を閉めたジークフリートはその場に立ち尽くしている。パーシヴァルは軽く首を傾げて「どうかしたか」と尋ねてみた。
    「一緒に寝ても良いか」
     思わぬ事を請われる。
     パーシヴァルは顔を上げてジークフリートの目を見た。
    「……構わんが」
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    mizus_g

    DONEワンライお題「二度目のキス」(時間オーバー)「何を舐めている?」
    「レモンキャンディ……だ、そうだ」
     風の無い夜だった。
     騎空艇の甲板で島々の夜景を眺めながら、ジークフリートはパーシヴァルの質問に対してやや舌足らずな発音で答えた。その口元は咥えた飴玉を転がすことに忙しいようで、喋っている最中にもしきりにうごめいている。
    「どうしたんだ、それは」
    「貰った。団員の土産だそうだ。個包装になったものが食堂に大量に積まれていてな、たくさんあったから俺もひとつ頂いてきたんだ」
    「……そうか」
     パーシヴァルは後ろめたさを抱えながら、ジークフリートの唇をちらちらと横目で盗み見ていた。彼の視線は艇の外、眼下の景色に注がれていて気づく様子は無い。
     まるく明るい月に照らされた唇の膨らみは品の良い厚みがあり、肉感を思わせるかたちをしている。ふっくらとしていて実に柔らかそうだ。それから、時折、チロリと覗く舌先が濡れた気配を纏いながら唇の表面を舐め、乾いた膨らみに少しの艶を添えてすぐに引っ込むしぐさをする。それがどうにも見ていて後ろめたい。見え隠れする舌が唇の合間を出たり入ったりするたびにパーシヴァルはなにか好ましくない衝動を持て余し、いったん視 2875

    mizus_g

    DONE「昨日の夢と今日の過ち」
    2021年3月21日全空の覇者17で配布した無料ペーパーに載せたものです。
    貰って下さった方ありがとうございました~!
    黒竜騎士団時代の話です。Rはつきませんが若干スケベです。
    夜も更けた薄暗い城内の廊下を、パーシヴァルはひとり、急ぎ足で宿舎の自室へと向かっていた。
     騎士団の皆はもうとうに寝静まっている。パーシヴァルはというと、黒竜騎士団の副団長に叙任されるにあたって必要な書類を揃えていたら思ったよりも時間がかかってしまい、気がついた時には辺りがすっかり暗く、静まりかえっていたのだった。
     複雑な仕事をしていたわけでもないのに無駄に時間が掛かったことには、理由がある。
     昨夜見た夢のせいだ。誰にも言えぬ、ひどく不埒な夢を見た。騎士団長のジークフリートと自分が何故か恋仲になっていて、ふたりでベッドに上がり、裸で抱き合う夢だった。
     奇妙なまでに五感の伴う夢で、自身で服を脱いだ彼が晒した素肌の色や、その艶めきの臨場感は今でも手に取るように思い出せる。夢の中のジークフリートはパーシヴァルの身体をベッドに押し倒し、自ら脚を開いて挑戦的にパーシヴァルを誘った。パーシヴァルは興奮して自制心をなくした状態にあり、晒された内腿の肉感に躊躇うことなく欲情した。その情動は夢のくせにあまりに強烈で、目が覚めて時間が経過した今も感情の内側に居座ったまま残ってしまっている。全裸の彼の 4494