Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    mizus_g

    @mizus_g
    パージクとたまにヴェラン 字書き

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🐥 🍮
    POIPOI 27

    mizus_g

    ☆quiet follow

    ワンライお題「怪我の手当て」

    #パージク

    「これで良し……、と」
     ジークフリートの背中と腕に巻いた晒し布を固定する。きつくなりすぎぬよう、解けたり緩んだりすることのないよう、慎重に。包帯を巻く技術などかつて騎士団で練習して以来一度も学んでいないが、ここ最近はジークフリートの怪我の手当をパーシヴァルが主に担当しているため随分と上達してきたように思う。
     毎回のように負傷して帰ってくるジークフリートの面倒を見るのは、騎空艇で隣室を与えられているパーシヴァルの当然の役割であろうと思うから、そのこと自体には何の不満も無い。しかし、ひとりで勝手に艇を降りてはどこぞで大怪我をして帰ってくる――ということを何度も繰り返すジークフリートに対しては言いたい文句が山のようにある。
     危険なことをするな。周りの人間を心配させるな。そう言うと彼は決まって、けろりとした顔で「俺は平気だぞ」と言うものだから、話はいつだって通じないし、パーシヴァルの想いが届くことも無いのだ。昔も今も、おそらくはこれからも。
    「すまんな。手間を掛ける」
    「過ぎたことを責めるつもりはないが、次は気をつけろ」
    「わかった」
     ことばの上では従順だが、次もまた怪我をして帰ってくるのだろう。
     パーシヴァルはジークフリートを見つめたまま瞳を細め、溜め息をついた。
    「次の戦いでは無茶をしないと約束できるか?」
    「まあ、努力はしよう」
    「……その言葉、覚えておけ」
    「うむ」
     パーシヴァルの言葉を聞いているのか居ないのか、ジークフリートは身体に巻かれた晒し布を手のひらで撫でている。
     すぐに治るのだから負傷しても構わないという彼の考えは、意図としては理解できるし、一理はある。実際にジークフリートは「元に戻らない怪我」を拵えてくることはなく、つまり彼は自身の肉体が傷ついても回復しうるラインを把握しているはずなのだ。それ以上の、まして命に関わるような負傷は注意して避けているのだと思う。
     合理的だ。理解はできる。
     それに、戦士として、些細な傷を恐れていては敵の前に立てぬということも確かだ。ジークフリートの無類の強さは、彼が常より負傷を恐れぬ男であるからこそという側面もあろう。つまらぬ常識を押しつけて彼の強さを封じる権限は誰にも無い。
    (――でも、俺は)
     血まみれで帰ってくる彼の姿を見て肝を冷やすのは、もう嫌だ。
     動けないほどの大怪我をして倒れている姿も、血に濡れて破れた肌も、服に染みこんだ鮮血も、見ずに済むのならば、もう見たくない。だが、パーシヴァルのこの切実な気持ちをジークフリートが理解することは無い。昔からそうだ。彼は変わらない。周囲の仲間達と慣れて態度が柔らかくなった昨今でも、彼にとってこの程度の負傷は「些細なこと」なのだろう。
    「傷が痛むだろう。今宵はもう寝ろ」
     そう促すと、ジークフリートは黙って頷いて立ち上がった。
     足取りはしっかりしているし、顔色も悪くはない。彼はいつも自分で、俺は痛みには強いから、と言う。負傷には慣れているから平気だ、と。
    「そんなに痛くないから、心配は無用だ」
     裸の上半身に包帯を巻いたまま何も羽織らずに、ジークフリートはベッドの縁に腰を下ろした。
    「……。仮にその言葉が本当だったとしても、早く寝ろ」
    「そうしよう。まあ、くたびれているのは事実だからな」
     ゆっくりと寝台に肘をつき、身体を横たえて、掛け布をかぶる。もそもそと動いて体勢をととのえて、彼は横向きになって膝を折り、背中を壁に向け、身体を小さく丸めたようだった。
    (……そうか、背が痛いのか)
     いつもは、仰向けで寝ていることが多いはずだ。
     不自然な体勢はまるで弱った獣のようにも見える。
     パーシヴァルは机の上に置かれている水差しを持ち上げ、空のコップに水を注いだ。それを持って立ち上がり、なるべく足音を忍ばせてベッドのそばへと寄る。ベッドサイドの小さなテーブルの上にそっとコップを置くと、丸まったジークフリートの身体がひくりと震えた。
    「水だ。喉が渇いたら飲め」
    「……ああ、すまんな。感謝する」
    「苦しいか? 眠れそうか」
    「平気だ。こうしているだけでも身体は休まる。傷はそのうちに……」
    「眠れそうなら眠ってしまえ」
     ジークフリートの言葉を意図的に遮り、パーシヴァルは腕を伸ばした。枕からはみ出して半ばシーツに落ちているジークフリートの前頭部に指先を当てて、髪と、額を、少しだけ撫でる。落ちる前髪をよけてみると額が汗に濡れていた。負担にならぬよう、落ち着いた一定のリズムで、圧を掛けず、何度も指先を往復させて、汗に湿った髪の感触を指先に刻むように愛撫する。
    (嘘吐きめ)
     傷が痛むのだろう。
     どんなつもりで自身の苦しみを否定するのか、他人であるパーシヴァルにはわかりようもないが、ジークフリートは嘘吐きだ。下手をしたら、彼には嘘を吐いているという自覚さえないかもしれないけれど。
     顎を引いてシーツに半分埋めたその顔を覗くと、眉を寄せて唇を引き結んでいる様子が見えた。そっとこめかみ辺りを撫でてやると、不自然に力んだ表情が少しだけ和らぐ。その変化は微少すぎてもしかしたらパーシヴァルの思い込みや見間違いなのかもしれないが、もしも少しでもこの手が彼の安らぎを生むことが出来るのであれば、夜通し眠らずに傍でこうしていてやってもいい。ジークフリートの体温を指先で味わうことはパーシヴァルの心にも安寧をもたらす。本心を言えば、触れていたい。許されるのならば彼が眠ってしまっても、ずっと。
     パーシヴァルは甘い溜め息を滲ませながら、ベッドサイドに椅子を寄せるためにゆっくりと立ち上がろうとした。
     指先がジークフリートの額から離れると、閉じていたまぶたが開いて、熱に濡れた金色の瞳が離れてゆくパーシヴァルの指先に縋るように上を向いた。
    「どこかへ、いくのか」
     掠れた声が問う。
     瞳の金色が揺らいでいた。切実な感情を内包した視線が見上げてくる。その光は不安定で、鋭利で、まるで手負いの獣のようだ。そこに警戒や攻撃性が含まれぬ事が不自然なほどに野性じみている。
    「……いや。……俺は何処へも行かん」
     パーシヴァルはジークフリートに見えるようはっきりと首を横に振って、寝台の縁に腰を下ろした。眠るジークフリートの邪魔にならぬ程度に場所を借り、寝台が不必要に揺れぬよう、そっと体重を預ける。
    「ここにずっと居る。何かあればお前を護ってやる。お前は、安心して眠れ」
     身体を捻って指を伸ばす。髪に触れる。側頭部を辿り、髪の中に耳の膨らみを感じてから、頬の脇と、こめかみを撫でる。触れていたいが、入眠の邪魔をしてはいけない。可能な限り優しく丁寧に、穏やかに撫でて、いつくしんで、愛情を教え込むように触れ続ける。
     ジークフリートはパーシヴァルの見つめる目線の先で、まぶたを下ろしてその瞳を閉じた。
     力んで引き結んでいたくちびるが少しずつほどけて、ゆるむように開いて、声にならぬ空気の流れが、パーシヴァルの名を呼んだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏💯🇱🇴🇻🇪🙏😭💖👍💴🙏🙏💖💖💖🙏🙏🙏🙏😭😭😭😭👏👏👏👏☺☺☺☺☺☺☺💖💖👏🙏🙏😭🙏🙏🙏💯☺🙏🙏🙏🙏💖💖🙏💖💗👏🙏😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    mizus_g

    REHABILI去年の秋にいただいたリクエストというかシチュエーションで「去年のイベント後、ウェールズに帰るパに、見えない不安を隠して寂しい気持ちを持っているジ、寂しさを嗅ぎ取ってギュンとくるパ」というものだったのですが想定よりジが素直になった気がしないでもない……けど寂しがるジってかわいいなあ。
    だいぶ時間経ってしまいましたがその節はコメントありがとうございました!

    ※イベント後の出来事については捏造です
     アルバノルムの軍勢が国境近くへ侵攻しているという情報が入ってから、数日。フェードラッヘは陣を敷いた軍勢を下手に刺激することのないようにと国境よりやや手前に騎士団の一隊を展開した。迎撃するには規模の足りぬ小隊であったが、背後の駐屯地にはいつでも援軍を出せるようにと騎士達が詰めている。しかし、敵勢と思しき軍は国境の僅か手前でぴたりと進軍を止め、動きの無いまま既に三日が経過していた。こちらの出方を窺っているか、あるいは何らかの事情があるのか――いずれにしろ攻め入ってこない以上はこちらから仕掛けることに大義は無い。動くに動けぬまま、前線や駐屯地では初日の緊張感が薄れ始めているとのことで、明日になって夜が明けても動きが無いようならば騎士団長であるランスロットが国境に赴いて様子を確認するという予定になっている。
    3289

    related works

    mizus_g

    DONE「昨日の夢と今日の過ち」
    2021年3月21日全空の覇者17で配布した無料ペーパーに載せたものです。
    貰って下さった方ありがとうございました~!
    黒竜騎士団時代の話です。Rはつきませんが若干スケベです。
    夜も更けた薄暗い城内の廊下を、パーシヴァルはひとり、急ぎ足で宿舎の自室へと向かっていた。
     騎士団の皆はもうとうに寝静まっている。パーシヴァルはというと、黒竜騎士団の副団長に叙任されるにあたって必要な書類を揃えていたら思ったよりも時間がかかってしまい、気がついた時には辺りがすっかり暗く、静まりかえっていたのだった。
     複雑な仕事をしていたわけでもないのに無駄に時間が掛かったことには、理由がある。
     昨夜見た夢のせいだ。誰にも言えぬ、ひどく不埒な夢を見た。騎士団長のジークフリートと自分が何故か恋仲になっていて、ふたりでベッドに上がり、裸で抱き合う夢だった。
     奇妙なまでに五感の伴う夢で、自身で服を脱いだ彼が晒した素肌の色や、その艶めきの臨場感は今でも手に取るように思い出せる。夢の中のジークフリートはパーシヴァルの身体をベッドに押し倒し、自ら脚を開いて挑戦的にパーシヴァルを誘った。パーシヴァルは興奮して自制心をなくした状態にあり、晒された内腿の肉感に躊躇うことなく欲情した。その情動は夢のくせにあまりに強烈で、目が覚めて時間が経過した今も感情の内側に居座ったまま残ってしまっている。全裸の彼の 4494

    mizus_g

    DONEワンライお題「一緒に眠る」ふと、控えめなノックの音が響く。
     深夜の騎空艇に聞こえる音と言えば艇の駆動音と風の音ばかりであるのが常だ。空耳を疑い、パーシヴァルは耳を澄ました。しばらく返事をしないでいると、少し間を置いてからもう一度、コンコン、と微かなノック音が聞こえてくる。
    「入れ」
     時間が時間だ。こちらが就寝している可能性を考慮しての遠慮であろう。
     訪ねてきているのは、おそらく――。
    「……すまんな、夜更けに」
     開いた扉からジークフリートが姿を見せた。
     最近、時々こういうことがある。夜も更けてパーシヴァルが就寝しようとする頃、見計らったようにジークフリートが部屋を訪ねてくるのだ。今宵で三度目だ。今日は今までで最も時刻が遅い。
    「どうした。共に酒を飲む相手でも探しているのか」
    「いや……、それもいいんだが」
    「今宵は飲まんぞ。もう遅い。明日に響く」
    「酒はまた今度でいい」
     扉を閉めたジークフリートはその場に立ち尽くしている。パーシヴァルは軽く首を傾げて「どうかしたか」と尋ねてみた。
    「一緒に寝ても良いか」
     思わぬ事を請われる。
     パーシヴァルは顔を上げてジークフリートの目を見た。
    「……構わんが」
    2717

    mizus_g

    DONEワンライお題「二度目のキス」(時間オーバー)「何を舐めている?」
    「レモンキャンディ……だ、そうだ」
     風の無い夜だった。
     騎空艇の甲板で島々の夜景を眺めながら、ジークフリートはパーシヴァルの質問に対してやや舌足らずな発音で答えた。その口元は咥えた飴玉を転がすことに忙しいようで、喋っている最中にもしきりにうごめいている。
    「どうしたんだ、それは」
    「貰った。団員の土産だそうだ。個包装になったものが食堂に大量に積まれていてな、たくさんあったから俺もひとつ頂いてきたんだ」
    「……そうか」
     パーシヴァルは後ろめたさを抱えながら、ジークフリートの唇をちらちらと横目で盗み見ていた。彼の視線は艇の外、眼下の景色に注がれていて気づく様子は無い。
     まるく明るい月に照らされた唇の膨らみは品の良い厚みがあり、肉感を思わせるかたちをしている。ふっくらとしていて実に柔らかそうだ。それから、時折、チロリと覗く舌先が濡れた気配を纏いながら唇の表面を舐め、乾いた膨らみに少しの艶を添えてすぐに引っ込むしぐさをする。それがどうにも見ていて後ろめたい。見え隠れする舌が唇の合間を出たり入ったりするたびにパーシヴァルはなにか好ましくない衝動を持て余し、いったん視 2875

    recommended works

    mizus_g

    DONEワンライお題「眠れない夜」(2.5h)
     グランサイファーの甲板で夜風を感じながら星空を見上げると、幾らか心が平坦になるような感覚がある。
     ここのところ自分の感情は不安定で揺れがある、と、ジークフリートは感じている。騎空士として仕事を請け負ったり仲間とともに日常を過ごしたりするにあたって不都合は無いにしろ、上の空であるとか、ぼうっとしているだとか、そういう言葉で形容されても否定できない状態がもうここのところ暫く続いているように思う。
     原因は半分ほどわかっていて、中心となるのはパーシヴァルの存在だ。率直に言うと、ジークフリートはパーシヴァルのことが気になって仕方が無い。付き合いの長い相手であるのにどうして急にこのようなことになったのかはよく解らないのだが、パーシヴァルの振る舞いや言動には特に変化は無いと思う――ということは変化したのはジークフリートのほうであろう。関係性は変わっていない。強いて言えば、共に騎空艇に乗るようになってからはそれぞれ別々に行動していた頃に比べると随分と接触は増えた。艇内ですれ違えば言葉を交わすし、食堂で出会えばそのまま食事を共にすることもある。元よりの知己ということもあって団長より同じ依頼や仕事のメンバーに選出されることもしばしばであるし、接触が増えれば当然ながら親しさも増すもので、今では昔のように手合わせをしたり、たまに二人で買い物に出たり酒を酌み交わしたりすることもある。声を聞く機会も増えた。一時期よりもずっと気軽に、他愛のないやりとりをするようになった。よく話をするから、彼の最近の趣味や食べ物の好みも知っている。いま読んでいる本のことだとか、最近知り合って話すようになった団員が誰か、ということだとか。パーシヴァルの服が翻った時に微かに舞う匂いも覚えた。彼の、扉をノックする音が昔よりも落ち着いた上品なリズムに変化していると言うことも。先日降り立った街で買ったワインが気に入って取り寄せることにしたとか、最近は季節の果物を口にする機会が増えた、とかいうことも知っている。そう言えば、ふだん、比較的低く重みのある声音で話す彼が、最近ジークフリートの前では幾らか緊張の緩んだような多少丸みのある声で話すことが増えたように思う。だから、そういう油断をわざと誘いたくて食事の席で酒を飲ませようとすると、すぐにこちらの意図に気づいて俺を酔わせようとするなと怒り出す。いや、怒るというか、文句を言
    5591