ナンデ
DOODLE龍スタン︎︎ ♀結婚式のお義兄ちゃんと義妹の小話
君は可愛い弟の恋人 貝殻に詰められた、紅を筆先にとる。あごを優しく掴み、筆先を唇の線に沿わす。体温で溶けた紅が彼女の唇の形に彩られていく。
「……ふぅ」
「終わった?」
「全然っ!む、ずかしいよ、化粧って。普段こんなこと、しないんだしさあっ」
息を止めて筆を操っているものだから、SAIの顔にはびっしり汗の玉が浮かんでいる。この日のために新調したジャケットを椅子にかけ、ピシリとのりのかかったシャツは腕捲りをしたせいで既に若干のシワがよっていた。
「はあ〜……緊張する。はい、もう一回、目閉じて!」
「ん」
返事をしつつ、スタンリーはそのまま、目を開けていた。SAIの指が再びあごにかかり、数学とプログラミングの為になら踊るように繰られる指先が震えながら、義妹になろうとする女の唇に色をのせるためにぎこちなく動くのを、見ていた。
645「……ふぅ」
「終わった?」
「全然っ!む、ずかしいよ、化粧って。普段こんなこと、しないんだしさあっ」
息を止めて筆を操っているものだから、SAIの顔にはびっしり汗の玉が浮かんでいる。この日のために新調したジャケットを椅子にかけ、ピシリとのりのかかったシャツは腕捲りをしたせいで既に若干のシワがよっていた。
「はあ〜……緊張する。はい、もう一回、目閉じて!」
「ん」
返事をしつつ、スタンリーはそのまま、目を開けていた。SAIの指が再びあごにかかり、数学とプログラミングの為になら踊るように繰られる指先が震えながら、義妹になろうとする女の唇に色をのせるためにぎこちなく動くのを、見ていた。
ナンデ
DOODLE慣れれば可愛いスイートベイビー龍スタ
しかめっ面しないでハニー ゼノと一緒にいたころ、スタンリーに煙草を吸う気はさらさらなかった。お喋り好きな幼馴染に「きみはどう思う?」と聞かれたら、即座に返答をしたかったし、目を離すとなんにでも手を出す彼に「ストップ」と声をかけるためには、煙草どころかロリポップキャンディだって齧りたくなかった。それどころか本当なら出来ることなら炭酸水のボトルも、バーガーの包みも持ちたくないのだ。だって砂糖たっぷりの飲みものをお気に入りのシャツにこぼすのはテンションが下がるし、バーガーの包みは放り投げるとソースが垂れる。ゼノと初めてしたケンカは、彼が垂れた前髪をアルコールランプで焦がした時に食べていたチーズバーガーを放り捨てて駆け寄って、買ったばかりのコンバースにケチャップがべったりついて取れなくなった時だった。「ゼノのせいで」と泣き言をいうスタンリーに、ゼノはむくれて「別に頼んでなかったよ」と返した。初めてとっくみあいのケンカになって、スタンリーが勝った。幼馴染を守りたかったのに、スタンリーがたたいたせいでゼノの頬は腫れたし、膝にいくつも擦り傷を作って、スタンリーはそれからコンバースを履くのは止めて、食事もゼノより早く食べ終えることで両手を開けた。だから子どもの頃のスタンリーにはとても煙草だの酒だのをやるよう余裕も、憧れるような必要も無かった。ゼノがいたから。
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