tennin5sui
DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「カメラ」盗人たけだけしい「後生大事そうにカメラを抱えてるけどな、実際のところ、何が大事なのか分かってんのかよ」
檸檬の言い分は、涙目の少年には通じていないように見えた。少年が抱えているカメラはどう見ても高級品だった。一眼レフと呼ぶのだろうか。百人にカメラを描きなさい、と指示をしたら、九十九人ともこうした、レンズの部分が出っ張った、重たそうな四角い物体を描いて寄越すだろう。残りの一人は絵心がない。
ちょっと見たところ、地面に落として、土っぽくはあるが、どこも故障しているようには見えない。精密機械はいかにも壊れました、という顔をしないから、外見で故障の判断をつけるのは難しいが、少年が大袈裟に怯え過ぎているのではないか、と蜜柑は思う。
1990檸檬の言い分は、涙目の少年には通じていないように見えた。少年が抱えているカメラはどう見ても高級品だった。一眼レフと呼ぶのだろうか。百人にカメラを描きなさい、と指示をしたら、九十九人ともこうした、レンズの部分が出っ張った、重たそうな四角い物体を描いて寄越すだろう。残りの一人は絵心がない。
ちょっと見たところ、地面に落として、土っぽくはあるが、どこも故障しているようには見えない。精密機械はいかにも壊れました、という顔をしないから、外見で故障の判断をつけるのは難しいが、少年が大袈裟に怯え過ぎているのではないか、と蜜柑は思う。
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DOODLEゆるゆる版果物ドロライ:お題「扇風機」気ままに暮らす 最近檸檬がおじさんと知り合いになったらしい。おじさんとは誰だと聞いたが、俺が知るかと返された。大抵家にいるからいつ行ったって会えるのだという情報から、定年を迎えた男か、それとも有閑階級かと想像していたが、実際に会ってみるとそれなりの老人であって、のんびりした様子であったから、そのどちらとも断定しかねた。
老人はぼさついた頭で、縁側で日向ぼっこをし、檸檬の挨拶が聞こえると老眼鏡を外しながら、およそ人前に出る格好ではない襦袢姿を恥じらいもせずに、こちらに近づいてくる。背の低い生垣越しに「昼間っから何をしてるんだ」と呆れたように言い放った。
「暇だったんだよ。ほら、これがダグラスだ」
「どう見ても日本人に見えるが」
1517老人はぼさついた頭で、縁側で日向ぼっこをし、檸檬の挨拶が聞こえると老眼鏡を外しながら、およそ人前に出る格好ではない襦袢姿を恥じらいもせずに、こちらに近づいてくる。背の低い生垣越しに「昼間っから何をしてるんだ」と呆れたように言い放った。
「暇だったんだよ。ほら、これがダグラスだ」
「どう見ても日本人に見えるが」
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「雷雨」電線崩壊 ピシャリと打ち切られるように電気が消えた。その辺りで落ちたのだろうと容易に想像のつく酷い音で、雷が鳴ったのだ。
こんな夜更けに停電か、真っ暗になってしまったな、という気持ちと、いや、日中だったらもっと面倒なことになった可能性もある、と冷静な考察とが頭の中に浮かぶ。だが、檸檬の楽天的な性格であれば、どちらにしたって困りはしない。
檸檬は先ほどまでパラパラとめくっていた、蜜柑が最近読んでいる文庫本をそっと卓上に戻した。激しい稲妻を走らせた空は、一仕事終えて満足し、猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしながらどこかへ遠ざかっていく。
停電はすぐには復旧しないだろう。弱ったな、と頭を掻く。自分の部屋ならばよかったのだが、蜜柑の部屋のどこに懐中電灯や蝋燭なんかの非常灯が準備されているのか分からない。体を折り曲げて小さな収納に手を突っ込んでみるが、何かの書類のようなものしか入っていない。次の段、次の収納と立て続けに手を伸ばすが、鍵やら、カードやら、ガムテープのような消耗品ばかりが手に触れる。
1351こんな夜更けに停電か、真っ暗になってしまったな、という気持ちと、いや、日中だったらもっと面倒なことになった可能性もある、と冷静な考察とが頭の中に浮かぶ。だが、檸檬の楽天的な性格であれば、どちらにしたって困りはしない。
檸檬は先ほどまでパラパラとめくっていた、蜜柑が最近読んでいる文庫本をそっと卓上に戻した。激しい稲妻を走らせた空は、一仕事終えて満足し、猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしながらどこかへ遠ざかっていく。
停電はすぐには復旧しないだろう。弱ったな、と頭を掻く。自分の部屋ならばよかったのだが、蜜柑の部屋のどこに懐中電灯や蝋燭なんかの非常灯が準備されているのか分からない。体を折り曲げて小さな収納に手を突っ込んでみるが、何かの書類のようなものしか入っていない。次の段、次の収納と立て続けに手を伸ばすが、鍵やら、カードやら、ガムテープのような消耗品ばかりが手に触れる。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「舞台」鏡板の松 縁側から眺めると、塀に沿って盆栽がいくつも並んでいる。大半は松だ。いくつかは梅や楓なんかで、色付くさまが鑑賞者には見目麗しく写るものだが、今は季節外れの風に晒されて白っぽく乾いて見えるので、檸檬には違いなんてさっぱり分からない。
「邪魔だ」と簡潔に述べて、蜜柑が檸檬の背中を箒で叩く。大人しく、既に蜜柑が掃いた辺りに移動すると、淡々と縁側から埃を掃き出していく。
別段、掃除をサボっている訳でなはない。流しなんかの水周りは軽く清め終えたし、埃の掃き出しを申し出た蜜柑が、未だ掃除を続けているだけだ。一人で単純な作業をしているのもつまらないだろうな、と思って、話しかけてさえいる。いっそ、親切だと言えるのではないだろうか。
1853「邪魔だ」と簡潔に述べて、蜜柑が檸檬の背中を箒で叩く。大人しく、既に蜜柑が掃いた辺りに移動すると、淡々と縁側から埃を掃き出していく。
別段、掃除をサボっている訳でなはない。流しなんかの水周りは軽く清め終えたし、埃の掃き出しを申し出た蜜柑が、未だ掃除を続けているだけだ。一人で単純な作業をしているのもつまらないだろうな、と思って、話しかけてさえいる。いっそ、親切だと言えるのではないだろうか。