糸遊文
PAST『蒼が愛したミモザ』カクテルにハマッてた時に書いた作品。
『蒼が愛したミモザ』 グッと照明を落とし、仄かに灯る橙色のペンダントライトに彩られた箱庭。しっとりとしたピアノの旋律と共に儚い恋心を乗せた歌声が、波紋の様に優しく切なく響く。濃紅色で彩られた唇は甘く恋心を囁き、目を伏せ翳った瞳は哀を漂わせる。今宵も、我が歌姫は誰を想い、その美しい声音で歌うのか。
彼女が一等よく見える席で、仄暗い感情が腹の底で渦巻くのを感じながら、ウォッカギブソンを流し込んで誤魔化す。アルコールで浮つく思考を微かなベルモットの香りと苦味が私を現実に引き戻す。ややあって、美しき旋律は止み控え目な拍手で締めくくられていた。舞台から彼女がそっと下り立ち、ゆったりと此方へと歩み寄る。仄かに輝く水槽を泳ぐセイレーンを捕らえるべく、席を立つ。するりと彼女の細腰に手を回し、私の元へと少し強引に引き寄せる。
759彼女が一等よく見える席で、仄暗い感情が腹の底で渦巻くのを感じながら、ウォッカギブソンを流し込んで誤魔化す。アルコールで浮つく思考を微かなベルモットの香りと苦味が私を現実に引き戻す。ややあって、美しき旋律は止み控え目な拍手で締めくくられていた。舞台から彼女がそっと下り立ち、ゆったりと此方へと歩み寄る。仄かに輝く水槽を泳ぐセイレーンを捕らえるべく、席を立つ。するりと彼女の細腰に手を回し、私の元へと少し強引に引き寄せる。