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    糸遊文

    テキトーに息してます。

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    POIPOI 27

    糸遊文

    PAST『花瓶と眼』をまるっと書き直そうとしていた跡を発見した。
    花瓶と眼 私はいつも通りに今日一日を終えようとしていた。夕陽が海に沈み、月が淡く照らす夜闇を泳ぐように漂う。歩き慣れたアスファルトの路をお腹が空くような匂いを嗅ぎながら進む。家々から漏れる小さな瞬きを眺めながら、少し寂れた二階建てのアパートの前までやってきた。カンカンカンッと軽快な音を立てながら非常階段を上がり、二階最奥の扉へ。手慣れた様にノブを捻る。小さな軋みを立てながら私を歓迎した。
    「やぁ」
     いつものように狭い玄関に足を踏み入れながら声を掛けるのだが、今日は何やら雰囲気が違う。いつもなら煌々と輝いている電灯は眠っていて、なんとも言えない錆びた鉄のような香りが微かに漂っている。なんの匂いだろうか、首を傾げながら靴を脱ぎ捨て奥へと入る。ゴミ袋や服が乱雑に置いてある小さな部屋。開け放たれた窓から吹き込む風に揺れるカーテンと干しっぱなしの服たち。闇夜を全て暴かんとする満月の光を恐れる様に部屋の隅に身を縮こめる影。私は息を潜め、そっと近付いてみる。影は私に気が付いたのか、勢い良く飛び出し私を押し倒した。ひんやりとした小さな掌が私の首を絞め、石榴の様な紅い瞳が私を射貫く。
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    糸遊文

    MOURNING落書き。
    オパール  《守りたいものはありますか?》
      
     無造作に貼られたポスター群の中から、その言葉だけが僕に強く問いかける。ぽたり、顎を伝ってアスファルトへ落ちた滴。熱暑で霞む僕の思考は、ぼんやりと誰かの影を追った。見知らぬ顔を貼り付けた人々が行き交う舗道、ゆらゆらと陽炎が戯れる。僕の視界が白黒から徐々に色味を取り戻し、見知った後ろ姿がふり返って――あぁ、君だったんだ。僕が守りたかったものは。
     舗道の真ん中で立ち尽くす僕を邪魔だと言わんばかりに顔を顰め擦れ違う人々。それすら、今の僕にはどうでもよくて。君にまた、巡り逢えた。ただそれだけが、嬉しくて哀しくて。僕は今、どんな顔をしているだろうか?
    「壱成?」
     僕を呼ぶ声音は優しくて、どこか懐かしい。閉じ込めて、奥底に眠っていた遠い日の愛おしい記憶が蘇る。降り注ぐ日の光を遮って、俯いていた僕の前に差し伸べられた君のものではない掌。白く柔らかかった君の掌は、硬く鈍色に変わっていた。柔和に微笑む顔は変わりはしないのに、どこかぎこちなくて。壊れ物を扱うように、そろりと手を繋ぐ。今度は大切に、大事に愛そう。視界を滲ませる涙を拭って、君じゃない君に微笑む。
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    糸遊文

    CAN’T MAKE盲目の友人と友人を崇拝する主人公の激重巨大感情を描こうとしていた模様。
    ※描きたいこと※
    ・主人公の身勝手さ
    ・主人公の友人に対する、巨大激重感情
    ・友人の主人公に対する、息苦しさや葛藤、愛しさ
    ・友人が舞台へと戻れない哀しさ、息苦しさ、苦悩
    ・主人公の闇落ち感情、言動
    ・現実にありそうでない、幻想的な世界
    ・光や触感、声音を重点的に描写したい
    闇夜の悲劇 僕は埃かぶったボロボロの舞台の上に立っている。
     その昔、ピカピカに磨き上げられた床、ワインを染み込ませた様な暗幕に金糸の装飾が舞台を彩り輝かせていた。そして、その中央には、目が眩むようなスポットライトを浴びて輝く君が居た。
    ――今はもう、その姿は無い。
    僕は色褪せてしまった暗幕を強く抱き締めながら、声さえも立てられず蹲って啼いた。月光がそんな僕を嘲笑うかの様に照らした。


    ****


     しんと静まりかえった少し肌寒い廊下。噎せ返る様な消毒液の匂い。「死」が昏く横たわる殺風景で湿気たこの空間が、僕は大嫌いだ。何も考えないように足早に歩を進める。「609号室」と書かれたプレートの部屋の前で止まり、重い溜息をひとつ。そして、音を立てずドアをスライドさせ中へと足を踏み込んだ。ドアノブを握る手が微かに震えていたのを見ぬ振りをして。
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