箱の底はじめとの距離が縮まると、どうしようもない愛しさが広がっていった。
笑ってくれる回数が増えた。冗談を言うようになった。そんな些細なことで。
それが兄弟としての縁だったと言えば呪いとも思えた。性別程度の壁はどうとでもなる時代だ、せめて兄弟でさえなければ、と悔いる日もあった。
しかし兄弟でなければはじめと出会うこともなかったのだと、そんな苦悩が苛んだ。
兄として振る舞い取材に託けてはじめを誘うたび、弟として慕ってくれるはじめに邪な思いが胸を突いた。
これはいけないことだと頭が警鐘を鳴らした。一時の気の迷いだと、その思いを箱にしまい蓋を閉じて鍵を締めた。
二度と開けるつもりはなかった。
丁呂介から電話がかかってくるまでは。
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