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    田@Chestnut-118

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    田@Chestnut-118

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    まだまだまだまだのくりへし

    シャンプーこの本丸のへし切長谷部と燭台切光忠は不仲ではない。ふたりで雑談に興じる姿をよく見かける。いやよく見かけていたのだが、最近の長谷部は厨を避け畑を避け、廊下で出会した際は残像のあとに声が届くくらいの速さですれ違っていた。そして今、光忠に渡すべき書簡を俺に託そうとしている。へし切長谷部が、だ。
    喧嘩でもしているのだろうか、いや、そんな事はどうでもいい。なんだこの違和感。申し訳なさげに書簡を差し出す刀をじっとまじまじと見つめる。長谷部は居心地悪そうに青紫の瞳を左上に逸らし「…難しいようであれば、他を当たる」視線を逸らしたままで時間を取らせたすまない、と頭を下げ書簡を仕舞った。
    「あんた、忙しいのか」
    立ち上がりかけた長谷部の腕を掴み尋ねる。
    「…髪」
    「へ?」
    「髪が違う」
    「ぐっ」
    そうか、髪に艶がない。違和感はこれか。
    しばらくの沈黙の後、観念したのか溜息をひとつ吐いて俺に向き直す。
    「あ、のな、まず繁忙期は終わったから忙しくはない。あー、そうだな、お前も伊達の刀だったな」
    視線を彷徨わせ、コホンと咳払いをする。
    「シャンプーが苦手なんだ」
    「は?」
    それまでの歯切れの悪さが嘘のように早口で捲し立てる。
    長谷部の風呂セット(店名と電話番号が印刷された薄いタオルと割れかけた固形石鹸のみ)をみた光忠に本丸中に響く悲鳴をあげられたこと、風呂上がりで浴衣姿にも関わらず光忠の身嗜み講座と光忠セレクトのバスグッズのプレゼンを正座して受けた事、しっかり湯冷めして風邪を引いたことまで一息で言い募り久しぶりに息継ぎする。打って変わって今度はまたしどろもどろにシャンプーという物は泡立ちが良すぎる。一度目に入ったことがあり以来その激痛がトラウマになった。そして一週間前に博多から譲り受けたシャンプーハットが破損してしまい以来、湯で流すだけで済ましていたと、新しいハットが届くまで光忠に見つからないように避けていた事を話し終えた。
    俯き加減で顔はよく見えないが耳から頸まで真っ赤に染まっている。光忠との関係に苛立ちを感じる事を不思議に思いつつ普段あまり使わない口から出た言葉は
    「俺が洗ってやる」
    だった。
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