花雨 桜の花びらが舞い散る公園の小道にビニール傘がふたつ。桜色がまばらになった公園は、朝から降りつづく雨のおかげもあり、久しぶりに二人きりになることができた。
不意にため息と小さな舌打ちが聞こえた。
しまった、久しぶりの逢瀬なのにひとりで喋り過ぎたか。
恐る恐る視線を横に流すと花びらを貼り付けたまま傘をたたむ大倶利伽羅の姿。
雨はまだやむ気配はない。
久しぶりの逢瀬なのに一人で面白くもない話を喋りすぎたか。浮かれ過ぎた。まだ終わりたくないのに、何か気の利いたことを、後悔と焦燥と渋滞する感情に言葉が詰まる。
公園の小道に桜と雨と長谷部と大倶利伽羅。
花を打つ雨音だけが響く。
俯き強く柄を握った手に大倶利伽羅の手が重なった。
長谷部の手を握る大倶利伽羅の表情はいつもと変わらない。
「長谷部。」
大倶利伽羅の声が耳に心地よく染み込む。繋がったところが熱い。
…俺もお前の名前が呼びたくてたまらない。
大倶利伽羅
恋刀の名前は長谷部の口から溢れることもなく喉の奥に落ちた。
大倶利伽羅の髪から長谷部の額へしたたる雫。
大きく見開かれた藤に映る琥珀。
「ん、ぅ」
何度も角度を変え次第に深く混じりあう唾液。大倶利伽羅は長谷部の感触を味わうように濡れたやわい唇の輪郭を舌で拭った。
「…たしかに」
「へ、」
「確かに、花に酔わされるのも悪くない」
「え」
「おかわり」
「へ、あ、」
ビニール傘の中、再び重るふたつの影。
祝儀とばかりに降り積もる花びらがふたりを隠した。