今夜、マズローの食卓を君と⚠原作とはなんの関わりもない二次創作です。無断転載、自作発言禁止。
⚠全年齢ですが事後描写はあります。全裸では無いのでセーフだと思いたい。
⚠書きかけなので尻叩き兼ねてます。
⚠読んだ後の誹謗中傷は受け付けておりません。自己責任でお願いします。
初めてアキが作ってくれた晩メシは、なんの工夫もないただの目玉焼きとウインナーだった。
最強のパンを作り上げたその日の夜の事だった。朝からサイコーに美味いモンを食えて大満足の俺の前に、アキは皿を持って立っている。
「おら、飯にするからそこ空けろ」
「飯?!また飯食っていいの?!マジでぇ?!」
「は?」
言ってることがさっぱりわからん、みたいな顔した早パイがテーブルに置いたのは、白米と味噌汁と、目玉焼きとなんか先っぽが4本に開いた……なんだこれ。
「……なぁ、早パイ」
「なんだ?文句あんなら食うな」
「違ぇよ。これなに?」
俺が指さした茶色の物体を見て、早パイはポカン、とアホっぽい顔をした。
「何ってお前…………ウインナーだろ」
「へぇ〜〜、これがういんなーってヤツかぁ!もしかして肉?!」
「……まぁ、ウン、肉だな」
「マジでッ?!よっしゃヤリィ〜!」
久しぶりに見た箸を掴んで食べようとすると、早パイから「おい、朝言ったこと忘れてんじゃねぇ!」と小言が飛んできたので、しぶしぶ箸を置いて手を合わせた。
「あー、えっと……イタダキマス!」
「よし」
いただきます、と早パイも手を合わせてもそもそと目玉焼きを食べ始めた。先っぽが開いたういんなーは美味い。肉っ!って味がして、ちょっとしょっぱくて、白米がもっともっと美味しくなる味だ。
「ウメェ〜!やべーなういんなー、サイコーだなういんなー!」
「ウインナーくらいでいちいち騒ぐな……」
はぁ、と俺の顔見てため息をつきやがった早パイは、目玉焼きに茶色い何かをかけている。
「……何かけてんの?」
「醤油」
「ふーん」
目玉焼きの黄身はちょっとパサパサしてたから、味噌汁と一緒に飲み込んだ。味噌汁の具はワカメと豆腐で、もうめちゃくちゃに最高だ。早パイはこれのこといんすたんと、って呼んでたけど知らねー。うめェモンはうめェでいいんだよ。
早パイの小言はうるせぇけど、飯は悪くない。
暖かくて、火ぃ通ってて、ちゃんと味がして、腐ってなければ誰かの食べ残しでもない。これからこんな飯が1日に何回も食えるって思うと、もう幸せで堪らなかった。
美味いなー、やべぇなーって米粒を噛み締めてると、こっちみてる早パイの顔がだんだん暗くなってくのに気がついた。
「早パイ、変な顔してっけど何?」
「…………明日は休みだから、もっとちゃんとしたもん作る」
もっと?今コイツもっと、って言ったか……??
「え、これより上が食えんの……?ヤバ……」
はわわわ、ほんとに?これ以上って何?え、肉の塊でも出されんのか?俺ン中のポチタも喜んでるんだろうな、心臓バクバクしてきた。そんな俺の事を見て、更に申し訳なさそうな顔をする早パイが、最高に面白かったのは、内緒だ。
「……てぇコトもあったよな〜」
「その話今思い出すのか?」
パワーが血抜きと諸々の検査で2日ほど不在になるので、俺とアキはお約束のようにベッドインしていた。俺たちがこうなったのはパワーが来た少し後のこと。俺もなんでこうなったんだろう?と思わなくもねぇけど、後悔はしてない。2人きりの時のアキは、とにかく俺に甘いから。
上のスウェットを着ただけで寝っ転がってる俺を、同じように下だけ履いたアキが正面から抱き締めてくる。ギューってされるのは好きだ。なんだかポチタになった気分。いや、俺ン心臓はポチタだから、俺は実質ポチタなのでは……?これがアキの言ってたテツガクってやつか?
「次の日ちゃんとハンバーグ出てきたのも面白かったぜ」
「まさか目玉焼きとウインナーごときであそこまで喜ばれると思わなかったんだよ……めちゃくちゃに手抜きだったしな……」
「今思うとすっげーヤケクソみたいな適当だったよな。でも、アキの飯はいつでもうめェから許す」
「……そうか」
あ、照れたな?ギューってされる力が強くなった。コイツは意外とわかりやすい男なんだよなぁ、って実感した。
ふと、アキのちょっとしょっぱい味が恋しくなってきて。
「なぁなぁ、明日の朝メシ、目玉焼きがいい」
俺とアキには、パワーに内緒の約束がある。
『パワーがいない日の食事は、デンジがリクエストしたものを作る』
これはアキが言い出した事だ。パワーが初めて血抜きで不在になった日に「デンジ、何が食いたい」と聞かれたのが始まりで、それからは自然にそうなった。この時のアキはどんなにめんどくさい料理でも作ってくれるから、甘やかされてんなァ、って嫌でも実感出来て、ムズムズする。
「わかった。作ってやるからもう寝るぞ」
ぽんぽん、と頭を撫でてくれる。アキの手も、好きだ。美味い飯作ってくれるし、俺の事撫でてくれるし、抱き締めてくれる。んでもって、何よりも大切に、守ってくれる。守ってくれる大人なんて、アキが初めてだったから、俺はアキの手だけはなんとしても守ってやりたいと思った。
「へへ、おやすみ」
「おやすみ、デンジ」
あったかくて優しい音がするアキの体が、俺は何より大好きだと思った。
◆
「ン、やる」
「やりィ」
土曜日の夕方、オレは台所からいい匂いがしてきたから、部屋から出て匂いを辿った。
フライパンの上で肉とキャベツを炒めてたアキに近寄ると、菜箸でそれを一摘み差し出される。
パワーが見たら「ズルい!ワシにも食わせろ!」と大騒ぎ間違いなしだが、その当人はリビングでニャーコとぐーすか寝ているのでセーフ。
「今日の飯なにー?」
「回鍋肉」
「ホッカイロ?」
「ホイコーロー。中華だ」
「へぇ。何味?」
「アー…………味噌、に似てる、か?回鍋肉は回鍋肉としか」
「中華なのに?」
「……味噌っぽい調味料が中国にもあんだよ」
「ふぅーん」
確かに味噌っぽい匂いがする。あ、これもうすぐ出来上がるやつじゃん。なんとなくそう思って、3つ揃えて買った皿を出して並べる。それぞれ赤と青と黄色の線が入った皿は、まぁどこでもよくあるリョーサンヒンってやつだ。最近の百均ってすげーな。皿も300円で3枚買える。なんかみんな自然に赤がパワー、青がアキ、黄色が俺って感じで手に取るようになった。色って不思議だよな。
「ありがとな」
そう言って、またキャベツを一摘み。なんか今日のアキは上機嫌だ。
「米は?」
「あと5分。お前はパワー起こしてニャーコに飯」
「おっけぃ。任せとけ」
まずは戸棚から買い置きのキャットフードを出すと、その音に反応したのかニャーコがパワーの傍を離れて俺のところにトコトコやってきた。可愛いヤツ。ニャーコのために、とパワーが選んだ赤い皿にデカいスプーン3杯分くらい入れてやると、さっきまでパワーとじゃれてて腹が減ってたのか、ガツガツ食べ始めた。
ニャーコに飯をやってる間に、パワーを揺り起こす事にする。
「おーいパワ子ちゃーーーん。晩メシだから起きろー」
「ンガッ……飯の時間か……?」
「そう。晩メシ。今日はホイコーロー?だと」
「ホイコーロー……?」
「中華だと」
「は?そんなこと常識だが?」
「へーへー。おら、ベランダ放り出されたくなけりゃ机拭けよな」
「…………………………仕方がないのぅ」
以前、片付けをするのを嫌がって、駄々をこねまくって大騒ぎしたパワーにブチ切れたアキが、パワーをベランダに締め出して放置したことがある。あれは凄かった。ずっと無言。しかもその日の飯はよりによって生姜焼きだったモンだから、まぁパワーにはこたえたらしい。その話を持ち出せばそこそこ大人しく従うようになった。布巾を渡すと、しぶしぶテーブルを拭いて、ニャーコと遊んだ猫じゃらしを部屋の隅っこに置いてあるニャーコの寝床になってるクッションの上にぽんと置いた。
……あー、これ。あれだ。多分だけど、俺が来たばっかの時のアキの気持ち。こんなんだったんだろうなー。
ぴー、ぴー。パワーの成長に謎の感動を覚えてると、スイハンキが米が炊けた事を教えてくれた。ホイコーローを仕上げてるアキの代わりにスイハンキの蓋を開ける。もわって白い湯気が上がって、米の匂いがする。腹減る匂いだ。
「おー。今日も美味そーじゃん。さんきゅーな、スイハンキ」
今日も俺たちに美味い米食わせてくれるスイハンキは、アキが先月新しく買ったヤツだ。2人が3人になると、炊く米の量が全然違うらしい。1人用の炊飯器ではとてもじゃないがいっぱいいっぱいで、これを機に買い換えた。
「……お前のそういう所、可愛いよな」
「ハ?どしたん早パイ。まだベッドじゃねぇよココ」
「たまにはベッド以外でも言わせろ」
「なんじゃウヌら、こんな所でイチャつきおって」
ン、と布巾を戻しに来たパワーを黙らせるべく、箸を3人分持たせた。パワーに茶を持たせたらもれなく床と雑巾が飲み干してしまいかねないので、茶は俺かアキが持つ。
コップはパワーがうっかり落としてもいいように、プラスチックのヤツ。それに茶を入れて、その後は米を盛って並べる。アキは出来上がったホイコーローをそれぞれの前に置いた。ついでに作ってた卵スープもいつの間にか持ってきてた。それいつ作ったん?
「いただきます」
「イタダキマス!」
「いただきます!」
そこからはまぁドタバタ。ホイコーローのキャベツを器用に避けるパワーとそれにキレるアキ。時折宙を舞うキャベツを掴んで食う俺。それを見て行儀が悪いと叱るアキ。あれ、アキめっちゃキレてね?俺知ってんぞ、こういう時はカルシウムってヤツを食うといいらしいぜ。で、カルシウムって何?
食い終わった皿を洗うのは、俺の仕事だ。アキが「少しは家事覚えとけ」と言い出したから、それに従った。アキは確かに小言がうるせぇし細かいけど、俺に常識を教えてくれる。今までの野郎は、俺にものを教えるどころか、俺がものを知らないことをいい事にして食いもんにしようとするヤツばっかりだったから、俺にとってアキは、初めて知った優しい男だった。俺が間違ってると教えてくれるし、最初こそ常識だろ、と呆れた顔してたのが、俺が義務教育受けてないとかヤクザ相手にしてたことをマキマさんから聞いたのか、少しづつそれが無くなっていった。その代わりに、俺に生活の仕方とか、挨拶とか、字の読み方、書き方とかを教えてくれるようになった。
「お前、馬鹿だけど地頭悪くねぇだろ 」
金勘定早いし。と、計算ドリル相手に唸ってた俺の頭をポン、と撫でてくれたのは、ずっとずっと忘れない。
俺は、他人の手が、特に野郎の手が頭上に来るのが苦手だ。まだ俺が今よりチビだった時は、ヤクザ共の憂さ晴らしに殴られることが多かった。ポチタの心臓貰った2年くらい前からは、殴られるよりもいいようにパシられることの方が増えたけど。だから、俺は急に誰かの手が頭上に来ると、つい身構えてしまう。女はともかくとして、野郎の時はほぼ毎回、体がそれを拒否するようにビクッとなって目をギュッと瞑る。
でも、この時俺は初めて、アキの手が怖いと思わなくなった。ポン、と軽く添えられた手が、俺の髪の毛をくしゃくしゃにして離れてく。
初めてだった。こんなに人に優しく頭を撫でられたのは、人生で初めてだった。今まで俺にとって、他人の手は俺を殴るため、俺を虐げるためのものだったから。
他人の手が恋しくなったのも、アキの事が恋しくなったのも、この時が初めてだった。
今思えば、俺はこん時にアキの事好きになったんだと思う。だって、この時に、アキは俺にとって特別な奴になったんだから。
「終わったか?」
「おー。拭いたら終わり」
「ならそれ終わったら風呂入れよ」
「早パイは?」
「今でた」
「おお、ほんとだ」
皿からアキに目を向けると、ちょんまげは消えて、すとんと解かれていた。タオルで濡れた髪を拭きながらスウェット姿で台所に立つアキは、普段のスーツしか知らない公安の人間からしてみればレアなんだろうなー。俺ってば超ラッキーじゃん。ハッピーでラッキー。
「パワ子は?」
「今風呂に突っ込んだ。お前が最後だ」
「うぃー」
なんか風呂の方がドタバタしてるなぁとは思ったけど、なんだパワ子か。幽霊とかじゃなくて良かった。
「なぁ、デンジ」
「ン?」
「お前、食ってみたいもんとか、あるか?」
「……どした、急に。腹壊した?」
「茶化すな。……いや、何となく、聞いただけだ」
あ、これなんかあったな。そう思って、俺はちゃんと答えてやることにした。
「んーーーーと……………………あ、あれ食ってみたい」
「あれ?」
「いちごの乗ったショートケーキ!」