いつか塩柱になる愛よ「ムック本、ですか珍しいですね」
その日、アキが上司に手渡されたのはいくつかのムック本だった。
アキの勤め先である光安出版社は、基本的に大学向けのテキストや資料集を中心に扱っているが、こういった雑誌やムック、季刊誌の類も何冊か出している。
「そうそう、何件かの学生生協から雑誌の取り扱いもしたいって声が最近かかってて。営業頼めるか?」
「わかりました」
そう答えて本を受け取る。
定期的に卸している講義用の指定テキスト以外の書籍は、営業をするためにまずは自分がそれを読むことが必要だ。なので、こうして受けとる時があると、職務中も休みの日もアキは本の虫になる。その日も残りの時間を読書と分析で過ごした。ラインナップの大半は学生向けの料理本や就活生必見、と書かれた企業分析本など。確かに気になる年頃なのだろう。自分だって、就活生の時はこんな書籍を買っていたなぁ、とアキはなんだか懐かしくなった。
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