Good night, honeyクラウス・V・ラインヘルツは愛妻家である。
これはもう、街中における共通認識であり、確定事項だ。
「旦那、嫁さんはどうした?」
市場に店を構える馴染みの八百屋の主人は、珍しくひとりのクラウスに目を丸くした。
仲睦まじいにもほどがあるこの夫婦は、いつもふたりでぴったりと寄り添って買い物に来る。お互いの買い物の為にちょっと離れる事はあっても、たいてい目の届くところにいる。
というのも、クラウスの愛する妻は足が悪いからだ。何かあってはいけないと、過保護に過保護を塗り重ねたような夫は必ず買い物に付き添い、荷物を持ち、よろけようものなら担いで帰る勢いだ。
ところが、この日は八百屋の主人がきょろきょろと辺りを見渡してもその姿はなかった。
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