あいおいてせんせぇ、と呼ぶ舌っ足らずな可愛い声が耳に届き、伊作は薬研を碾く手を止めて顔を上げた。
「やあ、いつものお使いだね」
常に開きっぱなしの戸に通じる土間に目をやれば、五、六歳程の幼子がじっと伊作を見上げている。
すっかりここの常連と化している子どもの目的は、今更問うまでもない。
伊作は薬研を脇にやって立ち上がると、注文の入った品を保管している棚に手を伸ばした。
両手のひらに一抱えほどの薬の入った布包みを取り、代金と引き換えに子どもの手の上にそっと優しく置いてやる。
手渡されたものをさも大事そうに抱え込み、ありがとうございます、と子どもがぺこりとお辞儀をした。
十日に一度、こうしてこの子どもは伊作から薬を受け取りにやってくる。
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