ひとりぼっちの呼ぶ名前「青」
この世界でそう自分を呼ぶのはただひとり。
その声に青は振り向いた。
「王よ、老人の楽しみを横取りする気ですかな?」
「老人?城中の若者を泣かせておいてよく言う」
「ほっほ、力の無い老人は頭だけが取り柄ですぞ」
青は目の前の髭の老人を見る。次の手が止まっているのは王と話をしているからだろう、と思ってから次は自分の番だったと思い出す。トン、と駒を動かせば視線だけを下げた老人が笑って駒を倒した。
「あ、」
「あまり青を泣かせるなよ」
「随分と過保護ですな」
「泣かれると言葉が通じないからな」
負けたことにもう一度と駒を並べ直そうとして、その腕を男に取られた。名残惜しそうに老人を見れば、彼は笑うだけで青はそのまま連れて行かれた。
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