傾国の卵、あるいは災禍の種子層主ネビュラポップが死んだ。
それは淡々と、今朝の天気や交通ダイヤの乱れと同列のものとして報告された。
新しい層主がスピーチをしていたようだが、耳に入らなかった。
ねびゅちが死んだ。俺の生きがい、人生のきらめき、輝ける恒星は、引退すら待たずにあっけなく燃え尽きた。
おれはこれから、何のために生きていけばいい?
死んでしまったものは仕方がないので、俺だけのねびゅちを作ることにした。
機体の当てならいくらでもある。ライブグッズとして売られていたも換装パーツのレプリカ、大きな声で言うのは憚られる目的で作られた、外側だけよく似た贋作。それらをかき集めて繋ぎ合わせれば、まあ格好はつくだろう。
問題は中身だ。本物を持ってくることはまず不可能。死体がどこにあるかすら俺にはわからないのだ。
幸い、類似品なら当てがあった。
行政支援公式ホームページの案内役AIは層主ネビュラポップを模している。街の案内板や音声ガイドその他諸々。解析して新規ねびゅち AIの参考にさせていただこう。ねびゅちが広告戦略に積極的なアイドルで助かった。
声の方は、非公式合成音声ソフトを流用する。これまでのグッズも含めて、新層主は回収してベンチやガードレールの材料にするとのことだったが、初動が遅い。回収キャンペーンが始まる前に売りに出されたものが中古ショップにはまだ存在していた。店主にはさぞ物好きに見えたに違いない。
材料を揃えた。後は場所だ。厳密には別人とはいえ、旧層主を新しく作ろうとしているのだ。六層にはいられない。引っ越すとすれば五層か、三層か。俺の目的のためには、個人主義と聞く三層のほうが都合がいいだろう。
そうして俺は三層に渡り、ねびゅちの制作にとりかかった。パーツを継ぎはぎして見てくれを整え、機人らしい中身を入れてやり、行動脳ともAIともつかない思考プログラムの構築に明け暮れた.
死者への冒涜と言う奴がいるかもしれない。だが、俺にはこれしかなかった。瞬星という輝きなしに歩くには、人生の荒野はあまりに暗い!
ああ、ねびゅち、ねびゅち、ねびゅち!尊き偶像、眩い煌めきの瞬星よ!俺はとっくに、その光に目を灼かれてしまっているのだから!!
だから、お前にはここにいてもらわなくてはならない。天に輝いているうちは、お前はみんなのアイドルだった。だが、どこの誰とも知れぬ機人に討ち堕とされたとあっては、星もただの石ころだ。俺はその石ころが、欲しくて欲しくてたまらない!!
だから、俺は今日も待っている。回路を組み、パーツを磨き、プログラムを構築しながら。俺だけの偶像が目覚める日を、今か今かと待っている。