ガラス越しのかくれんぼ*
覚悟を決めて、月島はその場所から一歩を踏み出した。
実に十年ぶりの出所だった。
月島が父親を殴り殺したあの日から十年、裁判の期間を含めれば十一年近くが経過している。
二十代の大半を刑務所の中で過ごした。体が重く感じるのは歳をとったせいだけではないだろう。前科持ちとなった月島には外の空気は眩しすぎた。
晴れて自由の身、と言いたいところだが、月島にはもう次の拘束場所、もとい就職先が決まっている。
本来はありがたいことなのだろう。怒りに身をまかせて人を殺したような男が、出所してすぐに上等な仕事にありつけるなど。
重い体を引きずって、先日受け取った手紙に書いてあったとおりの待ち合わせ場所へと向かう。たいした荷物も入っていないスカスカの鞄すら鉛のように重く感じる。
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