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    hebotsukai

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    テキスト投稿テスト。ちとせさんと教習所。

    #黒埼ちとせ
    kurosakiChitose

    「私の教官さんはどこ? ひょっとして……あなた? 」
    「君が黒埼ちとせさんなら、そうだよ」
     漫画の世界から飛び出して来たような少女ーーそれが生徒の第一印象だった。
    「良かった♪『あなただったら良いな』って思ってたから。あなたは?」
    「はいはい、こちらこそ。白井です。よろしくね」
     冗談めかして笑う彼女へ無愛想に返しながら、白井は「はて?」と首を傾げる。フリルの付いたワンピース姿から自然に“少女”と認識したが、この季節にこの場を訪れる女性は、大抵“少女”と呼べる年齢ではないのだから。
    「……はいっ、じゃあ周囲の安全確認してから乗車してくだっさい」
    「はーい♪」
     生徒は少女のように声を弾ませながら、乗車の準備を始める。
    「京安ドライビングスクール」の文字列が印字された安価なハイブリットカーと彼女のツーショットは不釣り合いで、フィクションと日常がない交ぜになった夢を見ているような気分になった。
    「準備出来たよ」
     イメージに反してちとせは乗車前の周囲と車体の確認と座席周りのポジショニングをつつがなくこなし、早々にハンドルを握っていた。
    「随分慣れてるね」
    「予習したもの。それに撮影でも、ちょっとね」
     そう言ってこなれたウィンクも見せるので、白井は彼女の職業をなんとなく察するのだった。
    「あー……、通りでべっぴんさんな訳だ」
    「VelvetRoseの黒埼ちとせだよ。覚えて帰ってね♪」
    「……ほーん。 じゃ、発進しましょう」
    「はーい♪」
    彼女が美しい指でエンジンボタンを押すと、窓の外の景色が緩やかに移動した。
     
    ※※※
     
    「じゃ、さっきのコースをもう一周してね。スピード抑えて」
    「はーい♪」
     実地教習は、何事もなく穏やかに進んだ。サイドミラーを気にし過ぎる癖が気になったが、初めてにしては落ち着きがあり、むしろ乗り心地の良さすらある。美人にフォローを入れたり、叱りつけたりする気恥ずかしさを味わわずに済むのは有り難かった。
    「黒埼さんみたいな子がわざわざ教習所通うなんてねぇ。これも撮影のためなの?」
     打ち解けてきたタイミングで当初の違和感を疑問としてぶつけてみる。
    「ううん。そういう訳じゃないけど……いけない?」
     ハンドルを握ったまま、軽い口調で話す様子は映画のワンシーンのようだ。
    白井は己を現実に引き戻す為、そして彼女の問いを否定する為に素早く首を振る。
    「いけなくはないよ。ちょっと似合わないなって思っちゃってさ」
    「ふうん? 私が女の子だから?」
     視線を前方に向けたまま、彼女は唇を尖らせる。
    「今は若い女の子も普通に免許取るよ。でも、アイドルってのはマネージャーの運転かタクシーで移動すりゃいいんじゃないのって。君イイトコのお嬢様っぽいから、専属の召し使いがいたりさ」
    「……そうだね、私もそう思ってた。けど、……ああん、眩しいっ」
     カーブを越えた運転席に傾いた日差しが刺さった。先の周回ではサイドミラーを注視していたために気にならなかったのだろう。
    「ん……灰になっちゃいそう」
    「ハイ?」
     言葉の意味を掴みあぐね、気の抜けた声でおうむ返ししてしまう。
    「あは。どうしたの?面白い顔しちゃって」
    「ハイ……?……ああっ!駄目だよ駄目、ちょっと止めて」
    「ええっ?何?ここで?」
    「減速して、路肩に寄せる」
    「ああ、うん、……はい」
     戸惑いながらもちとせは指示通りに停車した。
    「あのね、運転中はよく興奮するって人いるけどさ。軽く考えられちゃ困るんだよ。冷静にね」
    「……? 興奮? 私が」
     様子の変わった白井に肩を掴んで諭され、ちとせは目を白黒させている。
    「ハイになるって言ってたでしょ?」
    「あー……。そうじゃなくて」
    「そうじゃないなら何? 車は人を殺すんだから。歩行者も、バイクでも。相手の車もだし、同乗者もだよ」
    「……」
    「焦って無理な運転したり、居眠りとか、若い子は“ながら運転”もだね、軽く考えないように……」
    「……うん、ごめんなさい。気を付けるよ」
    「黒埼さん……?」
     戸惑いも戯れの色も消失した瞳を目にして、思わず垂訓を止める。
    「ちゃんとするよ。……しなきゃね、分かってるから」
     
    ※※※
     
    「じゃあ、今日はここまで」
    「ありがと♪ 」
     スタンプを貰った講習手帳をちとせは満足げに掲げた。
    「楽しかったぁ♪ ちょっと、怒られちゃたけど」
    「……」
     その言葉を受けて白井はばつが悪そうに目を反らした。
    「『灰になる』なんて漫画の設定、おじさんには伝わらないからね」
    「……漫画じゃないのに。まあ、いいけどね。あの子以外から怒られるの、久しぶりで面白かったし」
    「あの子?」
    「そう」
     言って、赤と青の混ざりあった空を見上げる。ただ立っているだけで、本当に漫画の世界の住人ようだった。
    「一緒にドライブしたい子がいるの。だから、最後まで見届けてね」
    「……当然」
     白井が頷くと、少女は感謝の代わりに柔らかな微笑を浮かべた。

    (了)
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    永島ㅤ

    SPOILERVelvetRoseの考察メモ。「」とじは原作の台詞引用。デレステ時空中心。【千夜ちゃんってどこに住んでたの】

    「あの頃」、ふたりは「ただの友だち」だった。
    千夜いわく、当時のお嬢さまは「銀世界に遊ぶ、無邪気な少女」。
    雪に包まれた地域で友だちとして共に過ごしていたことが伺える。

    お嬢さまのアイドルとしてのプロフィールは「出身地 東京都」だが、東京を銀世界と準えるのは信じ難い(主観だが)。

    「12のとき」、独りになった千夜は黒埼のおじさまに誘われて黒埼家で暮らし始めた。これに合わせて黒埼のおじさまが千夜の後見人になった。背景には「独りになった」千夜を早急に監護するためだったことも伺える。

    モバマス時空の「祝い事は、無縁」やデレステ時空の『夢を見ることが許される定義』の諸独白、「家庭の事情」に対する認識等を鑑みるに、「幼い頃」から既に千夜の人生は平穏とは言い難い。

    「幼い頃」は「あの頃」以前の話だと解釈しているため、千夜がちとせと出会う前からこの状態だと捉えている。

    千夜のアイドルとしてのプロフィールは「出身地 北海道」。
    では「あの頃」のちとせと千夜は北海道で共に時間を過ごしていたのか? 東京もしくはブカレストに住む黒埼ちとせは様々な国を行き来する 1555

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