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    秋日子

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    秋日子

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    ルスハン。嫉妬深いルースターと浮気を疑われたハングマン。ギャグ風味

    俺の恋人が優秀過ぎる件「なんか、俺ばっかり好きな気がする」
    少しだけぶすくれたルースターが、食堂でランチをかきこみながらそんな事を言うのももう何度目だろう。フェニックスはため息をついて、再び始まったルースターの愚痴とも惚気ともつかない独り言に耳を貸すことにする。
    「今度はなによ」
    「いやさぁ、なんかここんとこ変なんだよ…何か隠してる感じというのか、よそよそしいというのか」
    「もともとそんなに甘いタイプじゃないんでしょ?」
    「うーん…甘くはなくても、俺がソファ座ってたら絶対近くにいるし、飯だって休みの日は大概一緒に食べてたし、スマホ隠してるような事もなかったんだけど。なんか最近避けられてるような感じなんだよなぁ」
    頭を抱えてしまったルースターは、恋人であるハングマンにベタ惚れである。歳下で同僚で優秀なウィングマンでもある彼とこの親友が交際をしだしてどのくらいだろう。数えるのはバカバカしいのでもちろんきちんと憶えている訳では無いが、そろそろ半年というところのはず。にもかかわらずルースターは付き合いたての頃と同じく、いやそれ以上に彼にぞっこん、首ったけ、メロメロ、とにかくそれはもう、傍から見てもあの生意気な男の事が『大好き』なのだ。
    フェニックスも最初こそあのハングマンと付き合うと聞いた時には心底驚き、疑い、訝しんだものだったが、2人が並んでいる姿を見て分かったのだ、彼らの間には確かに恋があり、そしてそれは愛に由縁しているのだと。
    何かと言うとライバル心を燃やしていたハングマンは今やルースターの隣で花が綻ぶような笑顔を見せるようになったし、ルースターは我が恋人こそ世界、といった調子でとにかく何処にいても彼の傍でニコニコベタベタしているので、2人の関係は仲間内でもすぐさま周知の事実となった。けれどもこのルースターは、ハングマンへの愛情が深すぎる故か、元来寂しがりの部類に入るのか、何かある度にこうしてフェニックスにその心の内を吐露する。大体の場合はルースターが寂しがり過ぎというのが問題で、例えばハングマンがコヨーテとばかり遊ぶだの、風呂に一緒に入ってくれないだの、マーヴェリックの話ばかりするだのという類の他者から見ればほんの他愛のないものだった。
    今回もせいぜいルースターの思い込み、勘違い、そんなところだろう。そうは思うものの、フェニックスは面白がって言った。
    「なあに、ついに浮気でもされたわけ?」
    「浮気?! いやでもそんなはず…」
    「確かめてみればいいじゃない、疑ってたって仕方ない」
    「でももしそれが本当なら、お前恋人に浮気してるか聞かれて素直に言うか?」
    「そもそも私は浮気なんかしないけど、まあ言わないわね」
    「じゃあ聞いても意味ないじゃん!」
    まあ、確かに。
    「だったら、不意をついてみたら?」

    という事で、今夜は遅くなると伝えておいたが少し早くハングマン宅を訪れたルースター。彼の家はもう目と鼻の先だ。
    (あ~でも気が進まない…これでもしあいつがほんとに浮気なんかしてた日には俺はどうしたらいいんだ…)
    悶々とそんな事を考えながらも玄関ドアを開けて、そっと身を滑らせる。勝手知ったる恋人の家なのにどうしてこんなに緊張しなければいけないのか。妙にドキドキとしながら中にいるはずのハングマンに気取られないようにそっと奥へ進むと、キッチンの方から明かりが漏れているのが見えた。廊下を挟んで向かいに位置するリビングは、なんだかムーディな感じにセッティングされており、いつもと違うその雰囲気におや? と思ったのも束の間、キッチンから出てきたハングマンがルースターを見て、それはもう幽霊でも見たかのように驚き飛び上がった。
    「ルースター!? お前今日遅いんじゃなかったのか?!」
    「え?! いや、早く上がれたから、サプライズしようと思って!」
     その驚きようにこちらがむしろ慌てながら、ルースターは念のために用意していた小さな花束を差し出す。青や紫を基調としたそのブーケに、一瞬、ハングマンはわ、と顔を綻ばせた。がしかし、すぐさまハッとしたようにキッチンを振り返ると、ルースターを入れまいとするように立ち塞がる。
    「ハングマン?」
    「えっと…そうだ、手、手は洗ったのか?」
    「え?」
    「先に手を洗って来いよ、な?」
    「ハングマン…?」
     明らかにおかしい様子の彼に、ルースターの中の猜疑心がむくむくと膨らんでいく。何を隠したいんだ。恋人の俺にも言えない事なのか。それとも。
    (恋人だから、言えない…?)
     その背に誰を庇っているのか、そう考えたらもう止められず、ルースターはハングマンの肩を掴むと強引にキッチンに押し入った。
    「あ、おい、ルースター!」
     後ろでハングマンが制止するのも聞かずに、ルースターはキッチンをきょろきょろと見回す。アイランドキッチンの向こう側、隠れているとすればそこしかない。けれどもハングマンがルースターの腕を咄嗟に掴み、我を忘れたルースターは思わずその手を振りほどいた。その時。
    「ッ痛…!」
     小さくそんな声が漏れて、ルースターはハングマンを見た。振り払った指先が何かに掠ったと思ったが、どうやらそれは彼の顔だったらしい。頬を押さえるハングマンに、さっと血の気が引いたルースターは慌てて駆け寄った。
    「あ、ハングマン…ごめ、ごめん」
    「…」
    「痛い? ごめん、わざとじゃないんだ、ほんとごめん」
    「…大丈夫だ、掠っただけだから」
     痛みに耐えるように息を詰めていたハングマンが、そっと手を放す。露わになった頬には、赤い筋が走って血が滲んでいた。ルースターはすぐさま冷蔵庫から保冷剤を取り出してタオルを巻き付け、ハングマンの頬にそれをあてる。
    「ごめん、大事なお前の顔に傷つけるなんて…」
    「…いいけど、何にそんな必死になってたんだ?」
     怪我をした張本人の方が落ち着いていて、ルースターはがっくりと項垂れる。自分は何をしているのだろう。冷蔵庫に駆け寄った時に見たけれど、キッチンにはハングマンの他には誰もいなかった。まさか浮気を疑っていただなんて口が裂けても言えない。けれども自分は、その一方的で盲目なまでの思い込みで、偶発的であるとしても彼に怪我を負わせてしまったのだ。嫌われてしまうとしても、本当の事を言うべきだった。
    「ん? ルースター?」
     ハングマンは、痛いだろうに怒る事も無くルースターに優しく尋ねる。そんな彼をカウンターチェアに座らせて、ルースターは白状した。
    「…実は最近、お前の様子がおかしいのが気になって」
    「俺の様子が?」
    「ん…いつもなら、休みには一緒に出掛けて飯食ったり、家でのんびり過ごしたりしてたのに、最近はずっとコヨーテと会うってそればっかりだったろ? それに、スマホだって、俺に見られたくなさそうな素振りを何回かしてるのに気付いて…コヨーテの家から帰って、俺がここにいても、隣に座ろうとしなかったり…」
    「あー…それで?」
    「それでてっきり」
    「…浮気を疑った?」
     ずばり言い当てられてしまい、ルースターは黙り込んだ。落ち着いた彼の様子からするに、どうやら思い過ごしだったのだろう。しかし先程、ルースターの言葉を聞いたハングマンは少しだけ思い当たる節があるような反応を見せた。もし何か隠している事があるのなら、教えて欲しい。突然彼の態度が変わってしまうような隠し事なら、ルースターにだって知る権利はあるはずだ。そうは思うものの、赤らんできた頬を冷やす姿を見てしまうと、先程まであった強烈なまでのハングマンへの疑いは段々と熱を下げて行った。
     ハングマンは、黙っている。ルースターは言い分を言ってしまったので、後は彼からの言葉を待つだけだ。けれども状況が状況なだけに、まるで死刑宣告を待つ身になった気分で落ち着かないルースターが、結局口火を切った。
    「…誰か、来る予定だったのか?」
     つい、そんな事を聞いてしまった。そんな事を言う権利が、今の自分にあると思うのか! 心の中ではそう思うのに、本当の事を知りたいという欲求がルースターを走らせる。
     そんなルースターの様子にハングマンは小さく溜息を吐くと、保冷剤で冷えた指先でルースターの額を打った。
    「いって、」
    「あのな、ルースター。盛り上がってるとこ悪いんだが、今日、俺の家に来るはずだった人間が誰なのか、本当に解らないのか?」
    「え?」
    「お前以外にいないだろ?」
    「俺…?」
    「だとしたら俺が何をしてたか、本当に解らない?」
     ハングマンに呆れたように問われ、ルースターは思考を巡らせる。今夜は確かに、数日前に仕事が終わったら家に寄れよと言われて軽い気持ちで了承したのだ。当日になってそんな疑惑を持ってしまったせいでそれどころではなくなってしまったが、久しぶりにハングマンから家に来いと誘われて、浮かれたのを思い出す。
     冷静になって辺りを見渡してみれば、ハングマンはエプロンをしているし、キッチンは何か作業をしていたようで、熱を放つコンロやオーブンに気付いた。明らかに彼は、ルースターとのディナーの為に準備をしていたのだろう。
    「で、でもじゃあなんでさっき、あんなに慌ててたんだ? 何か隠そうとしてただろ?」
     思い過ごしだったとしても、疑いを持ったきっかけはなかった訳ではない。ルースターが縋るようにそう問いただすと、ハングマンはアイランドキッチンの上を顎で示した。
    「え?」
    「それ」
    「それ?」
    「見られたくなかったんだ」
     キッチンの上には様々な調理器具と野菜や肉などが並んでいて、よく見ればそこに、リングノートが一冊置いてある。見覚えのあるそれをルースターが見つけると同時、ハングマンが手に取り、表紙を見せるように閉じた。
    「あ…これ、お袋の…?」
    「レシピブックだ。お前に見つかったら、色々と説明が必要になるだろ…? だから隠してた」
     キャロルのレシピブックは、ルースターがティーンの頃に見かけて以来、彼女の遺品の中からも出てこなったからすっかり忘れていたのだ。娘にならともかく、特に料理の習慣もない一人息子にそれを手渡す事も出来なかったのだろう。何処へ行ったのか分からないまま記憶の彼方だったそれは今やすっかり色褪せ、年季を感じさせた。
    「なんでお前がそれを?」
    「まあ、そうなるわな」
     頭にハテナを浮かべて困惑しているルースターを、今度はハングマンが座らせると、「どこから説明するかな」と独り言ちる。何やら方向性の変わって来た話題に、ルースターは居住まいを正した。
    「お前、前に一度俺に、お袋の味の話したの憶えてるか?」
    「俺が? お前に?」
    「やっぱり、憶えてないか」
     まだ二人が恋人になるより前の話。ハードデックで飲んでいた時の事らしい。酔ったルースターは上機嫌に言ったらしいのだ。キャロルのラザニアは最高だったと。もう一度食べられるなら食べたい、あの味に適うものを、俺は知らない、と。珍しく家族の話をしていたから、憶えていた。そう言ったハングマンの言葉に、驚いたのはルースターだった。
    「まだ付き合ってもない頃の話、よく憶えてたな?!」
    「憶えてるさ。俺はお前のこと、その頃既に好きだったからな」
     しれっと告げられた告白に、ルースターは二の句が継げない。ハングマンはそのまま続けた。
    「で、本題はここからだ。優秀な俺はその時の事を思い出して、なんとか出来ないかと考えた」
    「なんとかって…死んだ人間の、食べた事もない料理の再現を? 無理だろ…」
    「まあ、簡単ではなかったさ。だが俺はお前の事が好きだから、お前の願いはなんだって叶えてやりたい」
    「待って、キャパオーバーしそうなんだけど」
    「残念ながらまだまだここからだぞ。俺がこのレシピブックに辿り着くまでの…いや、伝説のラザニアに辿り着くまでの冒険は」
    「もしかしてRPG割と好き?」
    「学生の頃はゼル伝もFFもドラクエもクロノトリガーもやってた。それで、続きだが」
    「待て待て待ってくれ、情報量が多い」
     初めて知る恋人の一面に驚くルースターを尻目に、ハングマンは話し続ける。
    「俺は考えた。普通、料理好きなアメリカのマムは大体こういう物を作ってるはずだ。ダメ元で大佐に確認したところ、ビンゴ。その有無をお前に確かめるまでもなく、俺はこいつの存在を知った」
    「優秀」
    「な。まずこれがミラクルナンバーワン。で、しかしここで問題が起きたんだが、大佐はその存在が確かにあった事は憶えていても、これが今何処へ行ってしまったのかまでは知らなかった」
    「え、じゃあ誰が…」
    「ここでミラクルナンバーツー。俺は、ブラッドショー夫妻の交友関係を辿った」
    「嘘だろ」
    「本当だ。まあ、俺は優秀だから、辿ったと言ってもほとんど一発でこれの現在の持ち主に行き当たった訳だが」
    「…サラか!」
    「ご名答。流石に海軍大将の奥方へ突然会いに行く事はこの俺でも不躾過ぎるから、そこは再び大佐の協力を仰いだ。マーヴェリックの伝手を経て、俺はサラにその存在を確認。予想通り、彼女が持ってたってわけだ」
     ふふん、と満足げに言ったハングマンは、茫然とするルースターの肩をそっと撫でると、レシピブックをその手に手渡した。
    「…キャロルがな、自分がもう長くない事を知って、サラにこれを託したそうだ。ブラッドリーに、時々でいいから何か作ってやってくれないかって。あの子は私のラザニアが大好物なのってな」
    「…お袋、」
    「彼女からすれば、お前がアナポリス行きを邪魔された後も海軍を目指してアヴィエイターになる事も、それがきっかけでマーヴェリックやアイスマンと疎遠になる事も、想像すらしてなかったんだろう。自分がいなくなっても変わらずに、愛する人たちが仲睦まじく過ごしていく…そんな時に、自分の料理が息子を喜ばせる瞬間もあるかも知れないって、思ったんじゃないか?」
     優しくそう語ったハングマンは、無言でレシピブックに目を落とすルースターに気を遣ってかその場を離れようとしたが、ルースターが腕を掴んで引き寄せた事によりそれは叶わなかった。
    「…ブラッドリー? 平気か?」
    「…」
    「…俺、余計なこと、」
    「違う。…全然余計じゃないよ。嬉しい」
     泣いているのかと思ったルースターは、顔を上げると満面の笑みを見せた。その目元が少しだけ潤んでいる事には気付かないふりをして、ハングマンも笑う。
    「サラにこれを借りるつもりだったけど、俺とお前が…その、付き合ってるのがバレてて、そういう事なら貴方に渡しておくわねって、譲り受けたんだ」
    「そっか…」
    「自分は、ほとんどお前に何も作ってやれなかったからって。キャロルと約束してたのに、大佐との関係がこじれてからは、カザンスキー家とも遠かったんだって? この本を見る度にお前がどうしてるかって、気になってたそうだ」
    「…昔から、優しい人だから」
    「うん。だから、これ、お前に」
     返すよ。そう言おうとしたハングマンを、ルースターが制する。
    「お前が持っててよ。俺はどうせ使わないし」
    「え? でも」
    「いいんだ。ただ、ここに置いといてよ。もし俺が何か食べたくなったら、一緒に作ってくれないか?」
    「…分かったよ。でも借りるだけだからな?」
    「うん、それでいい」
     ぎゅっと、抱き締めたハングマンの体を解放し、はたと気付く。いい話で忘れそうになったが、まだ解決していない疑問がいくつかある。
    「…で、隠してたのはこれだとして、他は? なんで最近よそよそしかった?」
     ルースターの指摘に、誤魔化されねえか、と舌打ちをしたハングマンが目を逸らす。
    「…聞いたら、笑うだろ」
    「笑わないから、教えてよ」
     真っすぐにハングマンの目を覗き込めば、ハングマンは明後日の方向を見ながらも話し始めた。
    「…まず、スマホ隠してたのは、レシピに載ってる材料の名前とか調理方法のやり方とか調べたりしてたから…知ってるだろ、俺が普段凝った料理は作らないの。分かんない言葉だらけで…そういうの調べてるとか、見られたくなかったんだ。あと、唯一彼女の味を知ってる大佐にも色々訊いてたし」
    「コヨーテのとこに行ってたのはほんと。あいつの家で、練習付き合ってもらってた。ラザニアなんて作った事ないから、初めは全然出来なくて…真っ黒こげになったり、ホワイトソースの味がおかしかったり…けどもったいないから食べて帰って来てた。それで、お前と飯食えなかったんだ」
    「お前に近寄らなかったのは、料理して帰って来たらお前絶対気付くって分かってたから」
    「え、俺が? なんで?」
    「お前自覚ないかもしれないけど相当鼻いいだろ? 俺が誰かに会って帰ると大概香水の匂い? とかで誰と会ってたかなんとなく当てるし…ラザニア焼いた時の焦げっぽい匂いに気付かれたくなかったんだ」
     ふい、とばつが悪そうにそう言ったハングマンに、ルースターは首を傾げた。
    「なんでそんなに、俺に隠したかったんだよ? 別に隠すことでもないだろ? 言ってくれれば良かったのに」
    「…サプライズ、したかった。今日で付き合って半年記念だったから」
     付き合って半年記念。
     その言葉に、ルースターは固まった。付き合って、半年? 今日で?
    「お前、憶えてなかっただろ。そういうの頓着なさそうだもんな」
    「え? え? 待って、待ってくれジェイク」
    「大丈夫だ、別に気にしない。むしろ好都合だったんだよ、何にも気付いてないお前に、サプライズプレゼントしてやれるんだって思ったから俄然張り切ったし」
    「待って待って待って、俺、何にも用意してない」
    「なんで? 花くれただろ?」
     不思議そうにそう言ったハングマンに、ルースターは髪をむしりそうな勢いで頭をガシガシと掻くと、再びぎゅっと恋人を抱きしめた。今度はありったけの力を込めて、それはもう思い切り。
    「なんだよルースター、苦しい」
    「ごめん…俺……あーーーー、本当に最高だよ、お前ってやつは!」
    「知ってる。俺は優秀だからな。恋人としても、もちろん優秀だ」
    「…ノロい上に馬鹿な雄鶏でごめん」
    「いいよ別に。そういうとこも好きだから」
     ぽんぽんと、ルースターのくしゃくしゃになった髪を撫でたハングマンの優しい手つきに、ついうっかり涙しそうになりつつ彼を解放して、改めてその頬に残る傷を撫でる。
    「そんな最高の恋人を疑って、怪我までさせるなんて俺は最低だ」
    「気にするなよ、女の顔じゃないんだ」
    「男でも女でも関係ない。大事な人の顔に…体に傷つけるなんて最低な人間のする事だ」
     悔やむように撫でるルースターの手に手をそっと重ねると、ハングマンはふわりと笑った。
    「じゃあ、そんなルースターが今から出来る挽回はなんだと思う?」
    「…お前が準備してくれたディナーを、無駄にしないこと」
    「ご名答」
     ルースターの言葉に満足げに笑ったハングマンが立ち上がって、ルースターをリビングへいざなう。
    「お前遅いと思ってたからまだちょっと時間かかるんだ。座って待ってて」
    「なんか手伝うよ」
    「また今度な。今日は俺にやらせてくれ。いっぱい練習したから、美味く出来ると思うんだ。待ってる間、それでも見といたら?」
     渡されたレシピブックを膝に乗せて、キャンドルの灯されたやたらムーディなリビングで開く。お気に入りのラザニアのページには、キャロルの字で『ブラッドリーの大好物!キャロルのラザニア』と書かれていた。
     そこにポストイットで、『キャロル&ジェイクの』という字が足されるのは、そう遠くない未来。

    「…で、あの絆創膏なわけね」
    「うん…俺、馬鹿だった」
    「そうね」
    「お前にも、迷惑かけたな」
    「今も絶賛かけてるとは思わない?」
    「なんで?」
    「…ハングマンとの惚気話に一時間も付き合わされてるの、思い出してもらっていい? 先週はあんた、俺ばっかり好きな気がするって言ってたわよね? その時の倍の時間惚気られてるこっちの身にもなろ?」
    「ああ、とんだ勘違いだったよ! ハングマンの愛は海より深い…!」
    「ダメだこいつ」
    「ラザニアもめちゃくちゃ美味かったしな。料理下手だからって気にしてたけど、全然そんなことないし。そうだ、迷惑かけたお礼に、お前にもラザニア作ってもらおう! きっと快諾してくれるぞ、最近あいつ、料理にハマってるから」
    「おいおいおい待て待てブラッドショー、これ以上私を巻き込まないで」
    「ラザニア食べたくない?」
    「食べたいが?」
    「じゃあ決まりな!」
     鼻歌でも飛び出しそうなルースターの背中を、フェニックスは遠い眼で見送った。
     上手くいっていてもいなくても付き合わされるなら、前の方がましだったな、とその視線に少しだけ後悔を滲ませながら。
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    秋日子

    DOODLEお昼に言ってたやつ
    山も落ちも意味もないけどエロくはない
    原稿の息抜きに筆慣らし
    https://twitter.com/mtw________
    いいからさっさと告白しろ「なあコヨーテ、例えばなんだが」
     二人だけのシャワールームで、ハングマンはブースの仕切りに凭れて突然切り出した。
    「例えば、いい感じだと思っている相手の部屋でポルノを見つけてしまって、容姿に自分と共通する部分が多いなと感じた場合、それは脈ありなのか?」
    「なんだって?」
     シャンプーを洗い流していたコヨーテは、思わず聞き返した。つまり、相手はゲイで、ハングマンに似た容姿のポルノスターを好んでいるから脈があるのではないかという、そういう事か。そしてその相手は十中八九。
    「ルースターってゲイだったのか」
    「え、なんでルースターだって分かった?」
    「分かるだろ」
     ハングマンの片想いの相手があの髭の同僚である事はもう随分と前から知っているし、二人が特殊作戦以降いい感じなのも知っていた。だって全部、この目の前の男が包み隠さず教えてくれるから。例え確信をついて『俺はルースターが好きなんだ』と言われずとも、そのくらいは分かってこそ親友というものだ。というかこのハングマンという男は、気を許した相手にはどこまでも緩い。色々駄々洩れになってしまっている事は指摘せずに来たが、この調子だときっとルースターにもバレているだろう。そこまでいくともう、そのポルノさえわざとなのではないかと思えて来る。
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