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    まろんじ

    主に作業進捗を上げるところ 今は典鬼が多い

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    まろんじ

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    すごい穴ぼこだらけの書きかけ江さに♀見つけたので いつか完成するのかな?

    ##とうらぶ
    #刀さに
    swordBlade

    十八になった今でも、はっきりと思い出せる幼少の記憶がある。
    「あの向こうには、何があるの」
     岬の切り立った崖から私が指さしたものを、彼は正しく理解していたのだと思う。空と海の堺には、二つの蒼が融け合う一筋の白い線が通っていた。
    「……空の向こうにあるのは……幾筋もの道です」
     
    「みち?」
    「ええ。そして其処が、あなたの故郷」
    「……こきょう?」
     長い髪がさわさわと風に吹かれていた。海の蒼より、幾分か淡い色だった。
    「あなたもいつか……帰るのでしょうね」
     水平線に降る雪のような瞳は、ずっと遠くを見続けていた。
    「あの空の向こうへ──」




     ねえ。あの子、今日お山を降りたんだって。まだ四つなのに。昨日、あの子と遊んだんだ。何だか、変なこと言ってたな。白い布をかぶったお兄ちゃんが、こっちを見てるって──。
     ……忘れる?
     そうかなあ。忘れちゃうのかな、私。
     ──江雪兄様が言うなら、本当かもしれないね。


     お山を降りたら、働くんでしょう?
     あの子、四つなのにもう働くの?
     私はまだ働かなくていいの?
     いつ働きに行くの?
     江雪兄様にも、分からないことがあるんだね──
     


     
    「燭台切光忠の管理していた人の子が、四歳にして初期刀を目視した」
     黒髪に群青の正絹を身につけた男が、口を開いた。
    「本当だったのですね。審神者の下限年齢が、四歳まで引き下げられたというのは」
     水色の髪を短く整えた男が答えた。
    「それなら、あいつも晴れて分霊の顕現が叶うことになるな。手塩にかけた子どもを手放すのは惜しいだろうが、早く本丸に行きたいというのもあいつの願いだったからな」
     白装束の男が笑った。
    「ところで──」
     黒髪の下の瞳が、卓の一角へ動いた。
    「江雪左文字。其方の管理する人の子の様子はどうだ?」
     名を呼ばれた男は、はい、と頭を下げた。重い鎖帷子が音を立てた。
    「──相変わらず、といったところです。彼女には何も見えておらず、また何も思い出しておりません」
     ふむ、と黒髪の男は顎に手を当てた。
    「十八になるのだったか。以前の下限年齢が、その頃であったな」
    「四歳まで引き下げられた今となっては、随分と年長に感じられますな」
     淡い蒼の髪の下で、瞳が僅かに細められる。
    「……確かに、相対的に言えば、彼女の審神者としての発達は遅れているということになります」
    「俺たちはそれを問題視しているつもりはない。そうだろう?」
     緑色の髪をした男が卓を囲む者たちを眺め回す。






    兄様……何をしてるの


    なんで……その人……


    あ……私……
     ──知ってる。
     血塗れになって地面に倒れていた男の身体の縁が、じりじりと大気に融け始める。それを眺めながら、まるでテープを早回しするように、埋め込まれた知識が浮かび上がって来るのを感じていた。
     歴史修正主義者と時間遡行軍の存在。対抗し得る戦力としての刀剣男士。付喪神である彼らを励起する者──審神者。
     そうだ。私は審神者なる者なのだ。
    「本……丸に……」
     私が声を取り戻した頃には、血塗れになっていた男の姿はもうなかった。
    「本丸に、行かなきゃ」


    「だけど、なんで……兄様。なんで、刀剣を折ったりなんか……」


    「……まさか、これが初めてじゃないの?」




    水平線は……上にも左右にも果てがありません。
    しかし、その下になら果てはある。
    あなたを連れて、水平線の下の果てへと向かう方が幸せなのではないかと……
    ずっと思っていました。
    そう思いながら私は、あなたの記憶を数回に渡って改ざんし、現れた刀剣男士を破壊しました。
    通常の忘却を越えた範囲での記憶の消去を……あなたに施しました。
    あなたが山を降りる日が、少しでも遠くなるように願っていました。
    姑息な時間稼ぎです。
    私の行いは、あなたというひとの自然な在りようを踏みにじるものでした。
    どうか──罰を与えてください。


    罰って……どうすればいいの?


    私を時の政府へ訴え出るのです。
    自分の記憶を改ざんし、顕現させた刀剣男士を破壊し、審神者の力の発現を妨害していた、と。
    それだけで、わたしは重罪となりましょう。
    刀剣男士として得たこの身体は、破壊され……刀解処分となるでしょう。
    いく振りもの刀を、この手で折って来ました。因果応報というものです。


    ……そんなの……嫌だよ……






    ……私が黙ってさえいれば、兄様は罪に問われないの?
    それなら……
    私……行くよ。
    山を降りる。
    審神者になるよ。


    私が審神者になったら、兄様が……江雪左文字が、たくさんの本丸で顕現するようになるんだよね。


    兄様は自分の罪を償いたい?
    それなら……
    さっき……言ってたよね。
    自分の行いはひとの自然な在りようを踏みにじるものだった、って。
    それならこれからは、ひとがひととして在れるように、審神者たちを導いて。


    私が……導く?


    戦いだけが唯一の選択肢ではない。戦いだけが、生きることではない。


    審神者たちが……ひとがひとらしく生きる術を見失わないように。
    兄様がみんなを導いて。
    これが、私の考えた償い。


    政府には訴えない。
    兄様が破壊した刀剣たちも、本霊のもとに戻れば記憶は失われる。
    このことを知ってるのは、私と兄様だけ。
    だから……。いなくなったりなんか、しないで。
    ずっと私たちを……審神者たちを、導いて。見守って。
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