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    どろろん

    @dororon15

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    どろろん

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    『私たちには会話が足りない』の続編を書こうとして前日譚で力尽きました
    リンク視点ではこうなってましたというお話

    私たちには会話が足りない 前日譚 厄災を倒して三月ほど経った頃、王に秘密裏に呼び出され、ゼルダとの結婚話を持ち掛けられていた。リンクは思いもよらない提案にまずは聴き間違いを疑った。
    「お主は力を持ち過ぎた。利用しようとする者たちの動きも分かっておるだろう、リンクよ。共に国を守りゆくため、娘と手を取り合いお主の力をこの疲弊した王家に貸してはくれぬか」
     まさに青天の霹靂であった。一介の騎士であり、ゼルダの護衛でしかないリンクが王室入りするなど想像も出来ず、呆然とするばかりだった。しかし自身を取り巻くきな臭い動きは十分承知していた。巻き込まれないよう数多の甘言から距離をとり、騎士として己の職分を全うすることに集中してきたつもりだ。それでももう見逃してもらえない立場に追い込まれたのだと知ると同時に、仰天の解決法に頭が追い付かなかった。
     狼狽えるばかりのリンクに王は一息付き、それまでのしかつめらしい表情を崩して再び口を開いた。
    「――と、いうのも建前でな。儂はゼルダには幸せな結婚をしてほしいと思っている。あれには幼い頃から役目を押し付け、辛い人生を歩ませてしまった。家族を、家庭を、愛し、愛される幸せをゼルダは知らぬのだ。儂は今まで奪うばかりで父として娘に何も与えてやれなかった。封印の力を手にしたゼルダはこれからハイラル王家の旗印として矢面に立ち続けることになる。せめて配偶者との生活は心穏やかに過ごせるものであってほしいのだ。リンクよ、お主の人柄を儂は認めておる。だからこそ、ゼルダを一人の女として愛することが難しければ断ってくれぬか。どのような返事とて遺恨は残さぬ。リンクはハイラルを守ってくれた勇者だ。縁がなかったとしてもお主の立場は儂がこの先如何様にしても守り通そう」
     ハイラル王の決意を聞き、リンクは頭にまず浮かんだ疑問を口にした。
    「姫様は私が相手でよろしいのでしょうか」
    「娘は文句を言えぬ。だから儂が見定めねばならぬのだ」
     ゼルダには自分の結婚という人生の大事において決定権さえないのだ。リンクは衝撃を受け、そして固く頷いた。
    「必ず姫様を幸せにします」
    「頼んだぞ、リンク」
     ゼルダにはまだ伝えておらず、内密にしておくよう言い含められ、リンクは了承して場を辞した。現実味のない話に持ち場に戻るリンクの足並みはふわふわと浮ついていた。
     ゼルダと結婚する。
     今までそんな罰当たりな想像をしたことがある筈もない。そもそも自分たちはまだ十七だ。結婚を考えるには早すぎる年齢だった。それどころかリンクはまだ誰とも付き合ったこともなければ、一人の女性を異性として愛したこともない。両親が亡くなり、一兵卒となり父からの訓示を守り、騎士として模範足れるようひたすらに駆けてきたように思う。
     大きく、重厚な扉を見上げたリンクはその扉の先にいる存在を思ってやはり先程の話は夢だったのではないかと思い返していた。ゼルダの私室の扉を背に所定の位置に立ち、腕を後ろ手に組めばやはり何か勘違いしているのではないかと納得してしまうようだった。
    「リンク。戻ったのですか?」
     扉が開き、ピポー! と大きく鳴いたテラコが床を素早く這ってリンクの足元に絡みつく。綺麗な声が穏やかに名を呼んでくれるのに耳が跳ね、リンクは体ごと振り向いた。
    「リンクが戻ってきたからテラコが騒いでしまって。一緒にお茶を飲みませんか」
     笑顔で誘われ、断れるはずがない。こうして度々誘われてゼルダの居室へ足を運び入れることは珍しくなくなっていた。
    「御父様はなんて?」
    「……、いえ」
     リンクが返事を濁せばゼルダは深追いしない。ゼルダには伝えられない重要な軍事機密に携わることが多いからだ。向かい合って豪奢なソファに座り、ゼルダに淹れてもらった紅茶を飲む。いつになっても慣れない畏れ多さを感じていたが、これが日常になる未来が来るかもしれない。リンクは妙に心臓がバクバクとうるさく胸を叩く衝撃に耐えていた。窓から差し込む日の光を受けた薄い金髪がゼルダの存在を輝かせるよう輪郭を眩く照らしている。柔らかそうな頬が淡く色づき、伏した瞳に長い睫毛の影が落ちて煌めいている。落ち着いた品のある所作で紅茶を飲むゼルダは今日も一段と美しい。人の美醜にどうにも疎いリンクでさえゼルダの美しさは訴えかけるものがあった。
    「テラコったら元気が有り余ってるみたいで。私が相手出来ない間にリンクがいないとインパにちょっかいを掛けに行ってしまうんです」
     ゼルダの話は今や八割方テラコに関することだった。テラコがね、テラコがね。テラコのことを話したくて仕方がない様子のゼルダのお喋り相手はインパがいなければ大抵リンクになる。最近ようやく部品を集めきり、修復出来たテラコが元気に走り回っている姿が愛おしくてたまらないのだろう。お喋りは得意ではないけれど、ゼルダの話ならどんな内容でもいつまでも聞いていられる。厄災が倒され、仲間たちが未来へ戻った後、テラコの修復を進める中、ずっと憂いていたゼルダの為にリンクは必死で部品をハイラル中からかき集め、無事ゼルダに笑顔が戻って一安心していた。ゼルダを護るためとはいえ、テラコを壊した張本人でもあったため、リンクは自分がゼルダから笑顔を奪ってしまった気がしていたのだ。
     小さな頃にゼルダが作ったというテラコはゼルダの心の拠り所なのだろう。思い出せていなかった頃でさえ、リンクには決して話してくれないような弱音をテラコになら話せたくらいだ。偶然その場に居合わせたリンクに聞かれていると気づいたゼルダはすぐに話を切り上げ、背を向けて去って行ってしまった。リンクには聞かれたくない本心だったのだ。
     当時は寂しく思ったその距離も、その後、父王に叱責されるゼルダを前にして当然のことだと思い知らされた。嗚咽に声を揺らしたゼルダを庇うことも駆け寄ることも出来ずにただ立ち竦むしか許されなかったリンクは己が無力を痛感させられてしまった。ゼルダを守る騎士のはずが、目の前で傷ついて声を震わせた主人を見て見ぬふりをすることしか出来ないこんな役立たずにゼルダが心を許してくれるはずがない。
     初めてゼルダが泣いたのだろう現場に居合せ、リンクは内心酷く動揺してしまった。立ち去ったゼルダが一人で泣いているのだと思えば胸を掻きむしりたくなるような焦燥に襲われ、その姿を想像して息苦しさを感じ、胸が痛んだ。
     許されるならば庇いたかった。出来損ないの姫だなんて、そんな酷い言葉を聞かせたくなかった。王と姫、互いの辛い立場が伝わってくるからこそ、あんなに頑張っている人に、どうしてそんな厳しい言葉を浴びせるのかとゼルダを取り巻く負の環境に怒りが湧いた。
     慰めたかった。励ましたかった。駆け寄って、言葉をかけたかった。その傷ついた心も護りたかった。
     そう願うリンクは口論をする二人の後ろに棒立ちで控え、足早に場を辞したゼルダの背中を見送っただけだった。
     一介の騎士でしかないリンクは常に役目に縛られ、いつもテラコやインパの親しみのある言動を羨ましく眺めているしか出来なかった。

     結婚さえすれば、許されるのだろうか。

     リンクがその閃きに顔を上げれば目が合ったゼルダがわずかに首を傾げる。遅れて向けられた微笑みにリンクは驚き、生唾を飲み込み、喉が嚥下の音を妙に大きく響かせた。


     数日後、リンクは正式にゼルダとの婚約を申し込まれ、受諾した。
     その後、ゼルダに呼び出され、暗に婚約破棄を迫られ、共に手を取り合うことを約束したものの、ゼルダがこの結婚を望んでいないことを感じ取ったリンクはすっかり意気消沈してしまった。そこでリンクはようやく自身がこの婚姻話に浮かれていたことに気付かされたのだ。
     お護りする国の大事な姫巫女だった筈が、いつの間にか未来のお嫁さんとして見るようになってしまっていた。
     式を挙げ、初めてのキスに緊張し、初夜に挑めばあっさりと拒否されてしまった。美しく着飾ったドレス姿のゼルダに見惚れ、浮き足立っていたのは自分ばかりなのだと再び思い知らされてしまう。ゼルダの気持ちを少しでも知りたくて好きな人の有無や好みを訊ねればまだまだ恋など知らない様子が伝わってくるのに安堵と落胆の両極端な感情を抱かされてしまった。ゼルダは少し前まで修行に専念していた身だ。仕方のないことなのだろう。そう自身に言い聞かせつつ好みのタイプと称して必死にゼルダの美点を挙げてしまった。自覚がないためか、全く伝わらない様子にリンクもそれ以上踏み込めずに黙り込んでしまった。
     目を瞑れば隣で横たわったゼルダの呼吸に意識を奪われながらゼルダの唇の柔らかさを思い出していた。

     リンクの妻になるための花嫁衣装に身を包んだ、一段と美しいゼルダが瞳を閉じてリンクの口づけを待っていた。
     恐る恐る肩に触れれば華奢な肩の肌の滑らかさが手のひらに吸い付いた。少し背伸びをしなければならないのを悔しく思っていたことなどあっという間に吹っ飛んでしまった。近づけば普段とは違う、今日この日のために用意されたのだろう花嫁の華やかな芳しさに鼻腔が満たされた。触れ合った唇は想像より柔らかく、弾力を感じさせ、低い温度でしっとりと重なり合った。

     体温を分け合う程でもない瞬間の出来事でしかなかったそれが脳内に焼き付き、何度も繰り返し思い出してしまう。幸せの絶頂とも言える時間だった。
     正直今は惨めな気分である。
     結婚した夫婦が、同じベッドに横たわり、体を許してもらえない。リンクは今日この日のために生殖機能の検査を受け、座学の講習も受けさせられ、ゼルダに負担をかけない為にそれはもう綿密に圧力をかけられ勉強させられたのだ。これまで全く男女の営みに関心を寄せてこなかったリンクにとって新境地の知識はリンクをこれでもかと混乱させ、困惑させた。ゼルダへ湧き出る下世話な興味を抑えて抑えて今日この日に緊張のピークを迎えて与えられた拒否だった。
     二十歳になったら考えるということは、二十歳になったら許されるのだろうか。
     まだ早いと言うゼルダの気持ちは理解出来るものだった。好きでもない男に抱かれたい筈がない。そう思うとリンクの気持ちも途端にしなんでしまった。ゼルダにそんな可哀想なことを強要出来るはずがない。ゼルダの心の準備が整うまでは待つべきなのだ。それが二十歳なのだろう。たった二年程度の話である。
     リンクは目を瞑った暗闇の中、いつの間にやらすっかり自分だけゼルダに片想いしてしまっていることを痛感させられたのだった。

     そうして愛しい女性と褥だけを共にする生殺しの生活が二年続いていた。寝相によっては寝息を立てた無防備なゼルダにぴたりと体をくっつけられ、寄り添うことも多かった。この年月の間、リンクの中で二十歳になったら許されると確定事項に凝り固まっていた。その期限があったからこそ手を伸ばすこともなく頑なに貞操を守ることが出来たのだ。一方でゼルダに想いを寄せてもらうべくリンクなりに必死にアピールしたものの、物を贈ることしか知らないリンクの単調な攻勢はゼルダにはとんと響かず、功を奏することはなかった。それでもゼルダから向けられる親愛は確かなもので、形だけとはいえ、夫婦としての信頼関係は深まっていくように感じられたのが救いだった。
     やはり騎士の時代とは違う、素のゼルダの様子を見せてもらえるのが嬉しかった。復興のために忙しかったのもあり、最初の一年はあっという間に過ぎ、気付けば残り半年を切って焦って実を結ばぬまま当日を迎えてしまった。
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