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    どろろん

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    どろろん

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    この前の現パロ続きで事故前の真面目な近衛SP時代

    現パロ②(前回の事故前) リンクは地図上で移動を始めた点を横目に着替え、素早く部屋を出た。マンションの階段を駆け下り、長く続く高い塀で厳重に囲まれた屋敷から出てきたばかりの後ろ姿を見つけて素早く後ろにつく。数歩離れた距離で同じ歩幅と踏み込みを合わせていればきょろきょろと頭を動かした視線とかち合う。
    「きゃあ!」
     大仰に叫んだ彼女は目を見開いてまるでお化けに遭遇したかのように顔を青ざめさせていた。
    「どっ、あっ、いつっ、のまっ、にっ……!」
     本気で驚かせてしまったらしく、ゼルダは震え上がって珍しく声を吃らせる。普段は明瞭に響く美しい声が跳ね上がってしまっている。何度も同じようなことが続いているというのに、どうにも慣れないらしい。胸を撫で下ろし、ふう、と息を整えたゼルダはキッとリンクを気丈にも睨みつけた。
    「コンビニに行くだけです。付いて来ないでください!」
     SPを付けられるほどの危険を抱えながら、何故そんな命令を下すのかリンクにはいつも不思議だった。実際の依頼者は彼女の父親である。最優先はゼルダの安全だ。彼女の命令をあっさりと聞き流したリンクは肩を怒らせてズンズンと先に進んで行く彼女の後ろ姿を追った。
    「付いて来ないでくださいって言いましたよね」
     コンビニの前までついて、後ろを振り返ったゼルダに叱りつけられる。命令を無視するリンクに怒り心頭、といった具合だがリンクにとってはその怒りこそ理解不能だった。彼女を付け狙う男を水面下で撃退したことは何度もあった。若く美しい娘は関係ない不審者の視線もよく集めていることにこのクライアントは気付いていない。そういった悪意から幼い頃から守られてきた対象は同年代の少女よりも鈍く、危険であるとリンクは冷静に判断していた。
    「一人になりたいから出てきたのに……っ」
     小さく呟かれた彼女の望みを最大限聞き入れる為にリンクは口を挟まず、歩幅を合わせ、気配を消している。これ以上の譲歩は出来ない。
    「……っ、もういいです」
     黙っていただけだというのに、何故かまた新たに腹を立てたらしいゼルダはリンクを振り切るようにコンビニへ入っていく。この少女の感情の起伏だけはどうにも理解が及ばない。何か失態を犯したつもりはなかったが、嫌われているのだ。精神的疲労を感じながらもリンクはその背を追った。

     点の移動を認め、ランニングマシンで走り込みをしていたリンクは汗を簡単に拭うと服を着替えて部屋を出る。コンクリートの無骨な高い塀を背に、リンクの姿を見つけた少女がにこやかに手を振った。
    「リンク、私のどこにGPSがつけられてるんですか? スマホだって置いてきたんですよ」
     心底不思議そうにくるりと回ったゼルダは一度風呂に入ったのだろう。艶めいた長い髪が翻り、彼女のシャンプーの香りが塾の帰りを送る車に同乗した車内で嗅いだ時より強く、新鮮なものに変わっていた。
     いつゼルダが機嫌を損ねて外してしまうか分からないため口外は出来ない。一度逃げ出したゼルダが暴漢に襲われかけたため、今は部屋の移動まで分かる最新のGPSが彼女の父親の了解の下、あらゆる場所に取り付けられていた。靴にまで仕込まれているとは想像もしないのだろう。
    「一緒に住めたらそんなもの必要ないのに……」
     聞こえないと思っているのだろう。普通の人間の耳ならまず聞こえないだろう小さな呟きをしっかりと聞き届け、リンクは動揺を押さえ込む。ゼルダときたら、自身の言葉に顔を真っ赤にして俯き、耳まで赤くして黙り込んでしまった。
    「こんな夜中に呼び出すような真似をしてしまってごめんなさい。もう少し、貴方といたいと思ってしまいました」
     毎日習い事と塾で埋め尽くされた日々を送っているゼルダの気晴らしなのだろう。最近はこうして夜中に家を抜け出し、リンクと少し立ち話をするようになっていた。打ち解けたゼルダは今までのよそよそしさや険のある態度が嘘のように素直になっていた。

    「外で待つのは危険です。電話をください」
    「お邪魔をしてしまってますね。ごめんなさい」
     言外に非難されたのだと受け止めてしまったゼルダにリンクは焦る。日付が替わる手前に呼び出すことが非常識であることくらいゼルダにも自覚があった。けれどリンクが言いたかったのはそうではない。このまま話が流れてしまえば聡いゼルダはきっともう二度とこんな真似はしなくなるだろう。それは嫌だ、とリンク本人も気付かないうちに口が開いていた。
    「いつでも駆けつけます」
    「頼もしいですね。そんなことを言ったら、寝る前に毎日呼びつけてしまいますよ」
    「どうぞ」
    「職務を逸脱しています。重労働ですね、リンク」
    「いえ、対象を護るのが仕事ですから」
    「……これも仕事ですか?」
     むう、と僅かに唇を尖らせたゼルダにじとりと睨みつけられる。機嫌を損ねてしまったらしい。リンクには今の会話でなぜゼルダが腹を立てることになってしまったのか全く分からなかった。外国語や難しい専門用語を話している訳でもないのに、ゼルダとの会話は時にリンクには理解出来ない難解さがあった。
    「仕事なら、呼びつけることは出来ません。ごめんなさい、リンク。もう寝たいですよね」
    「いえ。俺はあまり寝ないので」
     寂しそうに笑いかけられ、すっと背を伸ばしたゼルダが帰ろうとしているのだと察知してすぐに返事をしていた。
    「寝ないんですか?」
    「ショートスリーパーなんです。数日くらいなら徹夜も平気です」
     多少の徹夜が続いたところで体に負荷は大してかからない。職務上、リンクのこの体質は特技である。
    「まあ。私なんて、五時間でも辛いです。リンクは本当にすごいんですね」
    「いえ……」
     キラキラと瞳を輝かせ、真っ直ぐに見上げられると心が萎縮するような、それでいて舞い上がるような、なんとも浮ついた、これまでに経験のない心地になってリンクは瞳を伏せる。僅かに頬が熱くなっていく感覚があった。
     風邪なんて引いた覚えはないというのに、最近ゼルダと一緒にいると不可思議な体調の変化が起きるようになっていた。
    「私よりも小さいくらいなのに……どうしてそんなに強いのかしら」
    「鍛えています」
     むっとする気持ちを押さえつけて答える。
     殆ど同じ身長の筈だが、女性用の靴はヒールや厚底で補強されがちな分見下ろされやすいので勘違いしているのだと反論めいた言い訳が浮かぶ。平均よりも小さいのは事実で、言われ慣れており、自覚もありながらささくれ立つものがあった。冷静であれ、と常に言い聞かせているというのに最近の心の乱れにリンクは自身の不調を疑う。
    「普段どんなトレーニングを課しているんですか? やはり筋肉や骨密度が違うのでしょうか」
     自然に腕を取られ、興味深そうにゼルダがリンクの露出した手を持ち上げてまじまじと観察されてしまう。
     ゼルダの肌と体温を直に感じて、ゾワ、と全身の産毛が総毛立った。

    「あ……手は、男性の手をしてるんですね。怪我の跡がすごい……骨も、私より太くてゴツゴツしてます……」

     見た目だけなら中性的なのもあり、手も自身と似たようなものだと思っていたゼルダは予想外の違いに驚いていた。
     手を合わせればゼルダよりも大きく、傷だらけで脈打っている。ずしりと重みがあり、皮膚がザラザラしていて、触れただけで硬く、皮の厚みを感じさせるのだ。
     滑らかな白いゼルダの手とは随分と違う様相をしていた。きっとそこら辺の少年とも違う、長く厳しい訓練の積み重ねを感じさせるものがあった。

     SP一家に生まれたリンクは幼少の頃から厳しい特訓を受け、職務を円滑に遂行するために口数さえも減らしてしまったと話に聞いていた。これまでどれだけ辛いことがあっただろう。
     この手がリンクの辿った険しい道のりを示している。

     ゼルダは辛く感じるものの、敬意も同時に強く感じてリンクの手を両手で優しく包み込んだ。
    「傷だらけですね。もう痛みませんか?」
    「……はい」
    「よかった。これ以上、傷つくことがありませんように」
     リンクの職務上難しいのかもしれない。それでもゼルダは祈りを込めてぎゅっと握り締め、手を離す。

    「引き止めてごめんなさい。また明日、よろしくお願いしますね」
     リンクが頷けば、笑顔を咲かせたゼルダが目を細める。

    「おやすみなさい、リンク」

     長い髪を翻し、去っていくゼルダを追うのも忘れてリンクは呆然と棒立ちで見守ってしまった。門をくぐるゼルダがもう一度手を振ってくれるのについ手を上げて返してしまい、馴れ馴れしかっただろうか、と答えの出ない自問自答をし、その後ろ姿が見えなくなってもしばらくの間立ち尽くしていた。
     鼻腔がゼルダの残り香を探して鼻をひくつかせてしまう。手にはゼルダの冷たくも温かい、すべらかなえもいわれぬ心地のいい感触と体温が残っているようだった。

     妙に身体中火照って心臓が大きく全身を揺さぶるように鳴り響き、それでいて浮き上がるような酩酊感があった。

     戻らねば、と思うのに足が動かせない。こんなことは初めてで、しかし焦るよりもぼうっとゼルダの先ほどまであった姿を脳裏に思い浮かべ、間近で向けられた笑顔を繰り返してしまう。おやすみなさい、と美しい声が耳の中で響き続けているようだった。

     熱を出してしまったのだろうか。リンクは覚えのない違和感に戸惑うばかりだった。ゼルダはリンクの変化に気付いた様子はなかった。
     これほど夜でよかった、と思う日はなかった。
     
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